2021年4月。
私はこのエオルゼアに降り立った。
紆余曲折あったが、とても楽しい日々であった。
そんな私もついにハウジングを持つことになった。
その頃はちょうどナギ節で、日々どこかしらにちらほらと空き家が現れては消えていた。
私も類に漏れず、とある空き家の前で、地道にぽちぽちとゲームパッドのボタンを押し続けていた。
そんなぽちぽち生活が1週間ほど続いたある日、ようやく「ファ~ン」という何とも気の抜ける音とともに、ついに私も戸建ての家主となったのであった。
それから数か月。
無事にハウジング沼に落ちた私は、日々を家具の製作や配置に費やし、ついに決心することになる。
「パーティー募集をしよう」と。
有識な先輩方ならご存知だろうが、パーティー募集には己の家に遊びに来て欲しがる
ハウジング廃人コーディネーター達が多数いる。
私もそんなパーティー募集を見かけては遊びに行くのが最近の趣味でもあった。
募集の中にはカフェや料亭など、飲食店をモチーフとしたものがよく目立つ。その中でも私が好んでいく場所は、コロナ禍で滅多に行けなくなったわいわいと賑やかしい居酒屋なのだ。
人と話がしたい。
お客さんにくつろいでもらいたい。そんな一心から、こつこつとウェルカムドリンクや料理を作り、よりよい家具の配置にしようと試行錯誤し、ついに今日、パーティー募集をかける決心に至ったのだ。
そしてついに「居酒屋です。シャキ待ちフレ待ち雑談休憩なんでもどうぞ」という一文を、パーティー募集に放り込んだ。
人を待つ間、気が気ではなかった。
組んだご挨拶のマクロ文は失礼ではないだろうか。料理はちゃんと所持品に入っているだろうか。BGMは変じゃないだろうか。ああ、もう少しおしゃれをすべきだっただろうか。そもそもこんな店に迎えられて嬉しいだろうか。私の思考は完全なるネガティブに傾き始めていた。
まあ、
それも10分間ほどの話。
夕方の中途半端な時間も相まって、自分とミニオンだけがいる部屋に突っ立ってアレコレ考えるのにも、10分ほどで飽き始めていた。
「30分経っても誰も来なかったら募集を閉じよう。」
そう考え始め、ちらりとtwitterを見ている、完全に油断していた隙をついてそれは訪れた。
「こんにちわ!」
「大将、やってる?」
「www」
そう。
完全なる陽キャ3人組のお客様が来店したのである。
慌てた私は、せっかく組んだご挨拶のマクロを忘れ、めっちゃ普通にyellチャットで「いらっしゃいませ!」と出迎えた。
カウンター席に着いたお客様に料理をお渡しし、ミニオンを撫で、ただ突っ立っている私は思っていた。
「何を話せばいいんだろう」と。
ていうか居酒屋なんだから客同士でしゃべっててもいいよ!?私に何かを期待しないで!?初対面の人に振る話題たんて持ち合わせてないよ!?どうしたらいいの!?居酒屋っていうかスナックみてえなとこで働いたことないからわかんないよ!?コミュ強の神様私に力を!!!
理想の居酒屋接客例なんて考えていると、ひとり、またひとりと来店し、店内には6人の冒険者がひしめいていた。
それはもはや居酒屋ではない。屈強なファイターが集うそこは居酒屋なんて生易しいものではなく、モンハンのギルド酒場のようであった。
しかし、多人数を前に話題なく、ただ突っ立っているうち、17時となった。
そう。冒険者たちの火曜日の17時はとんでもなく忙しい。
筋肉ひしめくそこから、ひとり、またひとりと帰ってゆき、そこには無骨なクラシカル装備に身を包むミコッテの女性だけが座っていた。
それまで口をつぐんでいたその女性は、おもむろに「仕事を探していたら誰もいなくなっている」と言った。
私は「リアルのお仕事ですか?」と問うと、「いえ、FF内の話です」と返された。
ここで探すということはリーヴ稼業などではないのだろう。
何の話だろうと考えていると、ふと、私の脳裏に、最近よく眺めていた「パーティー募集」が過ぎった。
パーティー募集には、お金を払って人を雇い、零式などの高難易度コンテンツを手伝ってもらう「傭兵」というものがある。
傭兵やります!という募集は荒れるので禁止されている?らしいが、「傭兵してください、ひとり〇ギル」という富豪だけができる募集はOKらしい。
私はその女性に「傭兵ですか?」と問うた。
「そうです」女性は返答した。
聞くとどうやらその女性、ギャザクラはそうでもないが戦闘専門のようで、討伐傭兵やFATE金策、モブ狩りなどでお金を稼いでいるらしい。
いよいよモンハンだな、と私は思ったが、むしろ戦闘より制作稼業にハマったせいでギャザクラメンターになってしまった、自称心は永遠の若葉こと私の方が、RPGの遊び方としてはやや邪道であると言えよう。
そのミコッテの女性は、戦闘専の稼ぎ方の話や、モブ狩りツアーの有用性、ジェム納品書金策など、様々な話をしてくれた。私にとってもその時間はとても楽しかった。複数人相手にではなく一対一であったためか、まるで旧来の友人のように話しやすかった。
しばらく話し込んだあと、女性は「晩ごはんの時間なのでお暇します」と言った。
私は入り口まで彼女を送り、お礼とお辞儀のエモートをした。
女性はしばらくドアの前で黙り込んだあと、私に言った。
「また来ます」
私は、誰もいなくなった店内を歩き、地下室のベンチに座った。
「また、パーティー募集しよう」
リテイナーのもとへ料理の材料を取りに向かう足取りが、心なしか、というか気のせいだが軽く感じる。
モニターを見つめる顔は、いつものようなしかめ面ではなかった。