最強最愛のビギナーズ 第十五話「最後の休日とルビーの願い」「ここは…何時もの夢の中か」
見渡す一面が深淵の闇に覆われた音一つない静寂の間。
ただ、その深き黒の世界は不快感や恐怖などを感じる事無く、むしろどこか安心する様な気持ちになれた。
「見慣れたこの空間って事は、ねえ、いるんでしょ?」「…ああ、居るよ、というか何時もお前を見ていた」
耳のすぐそばで聞きなれた声がした。
「貴方が、暇人やストーカーの類だとは思っていないけど、それでも…物好きだね」
その言葉に、顔も姿も見えない相手が笑っている気がした。
「ふっ、まあ、言いたい事は色々あるが、物好きな点は否定できないな」
「それで、今日は何の用かな?いつも通りの叱咤激励?」
謎の存在は、一間おいて考えてから答え始めた。
「それもあるが、お前達の事が心配でな…」
「貴方がそんな風に表立って感情を表すのは珍しい、でも逆を言えばそれだけ今回の相手は危険という事なんだよね」
「ああ、今のお前達にとっては最悪と言ってもいい相手だろう、まあ、私の場合心配してるのは…いや、何でもない」
歯切れの悪い受け答えをしながら、会話は進んだ。
「不安は無いと言えば噓になる、いやむしろ不安しかない、それだけヤバい相手だってのも分かってる、でもさ」
「でも?」
「一人なら立ち向かおうとも思ってなかったと思う、それがこうやってあんな強敵に対峙しようとしてるんだ、人って変わるんだなって」
「それは…あの双子の姉妹達の存在か?」
「うん、間違いないね、あの二人に会っていなければ私は今頃イフリートの餌食になって人生終わってたよ、でも、そうは無からなかった、人勢が変わったんだ、あの二人に出会って」
「お前の中であの二人の存在はそれほど大きいもの何だな」
「うん、一人なら逃げたしたくなる様な相手でも、三人なら頑張ろうって思える、だからこの戦い絶対に引けない、三人で勝って生き抜いて見せるさ」
その言葉を聞いて安心したのか、目の前にいるであろう存在は満足している様だった。
「…ルビーよ、必ず三人で勝て、そして生きて帰ってこい」「うん、約束するよ」
光が闇の世界に差し込む、どうやらお別れの時間が来たようだ。
最後に声がしたであろう方向に目をやると、そこには…一瞬緑の髪色をした何者かが見えたような気がした。
………
私の瞼に焼き付くように差し込む強く眩い光、そう朝がやってたのだ。
まだ眠った脳をゆっくりと揺り起こし、明日に迫った決戦の事を考える。
「…やるだけの事はやった、後は…やるだけだ!」
既に自分の中で考える余地は無いらしく、後は当たって砕けろの精神で頑張ろうと思った。
それは決して投げやりな気持ちからではない、あの妹達とならそれが出来ると信じているからだ。
ははっ、これが妹達への想い、即ち愛のなせる業なのかな。
そんな余韻に浸る暇もなく、何の前触れもなく豪快に吹き飛ぶ私の部屋のドア。
「姉さま、おはよー!おはよー!おはよー!大事な事だから三回言ったよ?ミラクルモーニングー!入るよ?」扉を全力で破壊してから、入る?言葉の使い方とタイミングがおかしくないかと私は引いた、ついでに血の気も。
だってここは何時もの宿屋じゃなくて、マリエさんのお宅…、一歩間違えればこちらがドアと同じ運命に…
赤い元気な髪色がトレードマークのトンが、元気な表情で部屋に入ってきた。
その後ろからひょこっと、栗色のキレイな髪色をしたアスも顔をのぞかせた。
「お姉様、おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」
「トンちゃんに、アスちゃんおはよう!お陰様で気持ちよくぐっすりと眠れたよ」
「お姉様、いよいよ明日はアシエン達との決戦日ですね、良ければ今日は三人で外出してのんびり過ごしたいと思うのですがいかがでしょう?」アスからの提案に頷く私。
「うん、いいね!実は私も二人に話があってね、最後にそこに寄ってもらえると嬉しいかな」
「やったー!久しぶりのお出かけ嬉しいなぁ、美味しいもの沢山食べるぞぉー!」
トンちゃんは…どちらかと言えば食い気の方が優先していそうだけどね。
「もちろんトンちゃんが大好きなあの場所にも行くから安心して、では決まりですね、お姉様、支度をして外で落ち合いましょう」
「分かった、二人ともまた後でね」
ルンルン気分で去る二人の後姿を見て、絶対に守らなければとこの時私は感じた。
合流した私達が向かった先は、リムサロミンサにある誰もが知る有名レストランのビスマルク。
ここでは近海で捕れた活きが良い新鮮な魚介類を楽しめるだけではなく、その味も絶品と多くの美食家達が口をそろえて言う。
「たのもうー!」貴女はどこの道場やぶりですか?と言わんばかりにお店の入り口で、元気に声を張るトン。
その声に注目する周りのお客さんと店員達。
「もしや…貴女様はいつぞや豪快な食べっぷりで見るもの全員を魅了した、あの時のお方ではありませんか?」
※最強最愛のビギナーズ第四話参照一人のウェイターが尊敬の眼差しをトンに向け話しかけてきた。
見る人全員を魅了するほど豪快な食いっぷりとは一体…我が妹ながら末恐ろしや。
「私はね、ただ自分の目の前に並んだ美味しそうな料理に非礼が無いように、最大限の礼を尽くして食べただけ」
一般的に言い換えると、そこにうまそうな食い物があったから全力で食べた…かな?実にトンちゃんらしく分かりやすい。
その言葉を涙ながらに恍惚の表情で聞くウェイター。
「ああ、貴女の様な人にまた来て頂けた事を光栄に思います…うううう…」
何故泣く、ウェイターよ、一体何処に感動する要素があったというのだ…私には分からない。
「フッ!私の生き様、今日も沢山見てね!」…生き様とは一体。
テーブルにこれでもかと並んだ折々の目でも舌でも楽しめる料理を楽しんだが、何だろうこの気持ち。
一人異次元の様な食いっぷりの末っ子をしり目に、常に周りの方達の視線に囲まれていたせいか落ち着いて食せなかった事だけが心残りだ。
その豪快な食事風景を見て件のウェイターだけではなく、他のお客さんの中にも何故かその食事風景を見て泣いている人達が何人か居たのは謎だ。
そんな状況にあっても全く動じず、一人優雅にお茶を嗜む次女も、間違いなく豪傑の類であろう。
うちの妹達といると、食事一つだけでこんなにも楽しいのは何故だ。
「あ、アスちゃん、私あそこのモモラモラアイスが食べたいっ!」今さっきまで食べてたのに、貴女の胃袋は異次元ですか?
妹に心酔したであろう多くのテンパード達の涙に見送られ私達は次の場所に向かった。
私達が次に向かったのは、グリダニアにあるミィ・ケット野外音楽堂。
今日はここで平和の祭典を祝う音楽祭をやっているとの情報を聞くつけて足を運んだのだ。
会場にたどり着くと、そこには既に音楽に引き寄せられた多くの人達が雰囲気に酔いしれていた。
「俺の歌を聞けー!」
威勢の良い掛け声とともにノリの良い曲が次々と流れていった。
普段音楽は聴かないけど、まるで私の心に掛かりかけてくるかの様に次第にテンションが上がった。
きっと私と同じように、最初はキョトンとして聞いていた二人の妹達も、次第に音楽に乗っているのが伝わってきた。
「ねえ、アスちゃん久しぶりにあの踊り見せてよ!」
急に自分に話を振られたことに動揺を隠せないアス、何時も冷静沈着なイメージだけに彼女のこんな姿自体が珍しく、それだけに微笑ましい。
「え、え、えええ!こんな人が大勢の所で踊るの?流石に恥ずかしいよぉ…」「ねえ、お願いアスちゃん、私子供の頃からあの踊り大好きなの、だからねっ?」
「仕方ないなぁ、トンちゃんにそこまでお願いされたら断れないから、頑張って踊ってみる!」
切り替えの早さに感動していると、アスが颯爽と舞台の上に移動した。
急に舞台上に現れた可憐で美しいミコッテの登場に会場が騒めき出す。
「それじゃアスちゃん始めるよ!皆も拍手でアスちゃんを応援してね!」
そう言うとトンが体でリズムを取り歌い始めた。
「タンタララ~タンタンタン、タンタララ~タンタンタン、タンタララ~タンタンタン、タンタララ~タンタンタン」トンが口ずさむ歌に合わせて華麗に回転を始めるアス。
「ラッタラタ~タッタタッタ~、ラッタラタ~タッタタッタ~」
力強いトンの歌声が会場を包み、アスの情熱的な踊りが人々を魅了する。
「タンタラタラヤッタッタ~、タンタラタラヤッタッタ~」
大地からの願いを天に届ける様な切実で、純粋な思いが込めた声が辺りを包み込む。
トンの声に合わせてアスの踊りも時に情熱的に、時に苛烈に加速する。
気が付けば、見ている人皆が、手を叩きリズムをとりながらトンとアスを応援していた。
いつの間にか音楽と踊りを通して皆が一つになっていたのだ。
なんて子達なんだ、我が妹ながら本当に凄い。
「タンタララ~タンタンタン、タンタララ~タンタンタン、タンタ~ン、タンタ~ン、タンタンタ~ン…」
トンの歌が終わりを告げ、それに合わせる様にアスが大きく回転を何度か繰り返し、絶妙なタイミングでターンを決めてフィニッシュ。
一瞬の静寂の後、会場からは盛大な拍手と喝采が飛び交った。
素直に良いものを見せてもらった観客たちからの真摯な気持ちなのだろう。
それだけ二人の掛け合わせは素晴らしかった、私も同じ様に魅せられた一人で感動の気持ちにで一杯だった。
「姉さま、アスちゃんの踊りどうだった?凄くかっこよかったでしょ?」いつの間にか最高のショーを終えた二人が私の前にいた事に、見入っていた私は驚いて返答した。
「あ、うん、凄い良かった!トンちゃんは歌声がキレイだったし、アスちゃんの踊りは美しさだけじゃなくて、時にダイナミックだったり、食い入るように見させてもらったよ」
「お姉様、ありがとうございます!久しぶりで緊張したけど踊って良かったです。」
アスは素直に照れた表情を見せた。
「それにしてもあの歌と踊りは一体なんだったの?」
「あの歌と踊りは私達の一族に伝わる豊穣を祝う伝統の舞踊なんだよ!昔はお父さん、お母さん、それに村の皆達と燃え上がる焚火を囲んで良く踊ったの…でも」
今まで嬉しそうに語っていたトンの表情とトーンが明らかに下がった。
「でも?」
「その日、私達の村は悲劇に見舞われ一族、家族共に目の前で息絶えていきました、それなので今まであまり表に出す事はなかったのですが、久しぶりに家族を思い出せて良かったです」アスがトンのフォローをするように、自分たちの身に起こった事をさらりと説明してくれた。
「ごめん、まさかそんな事情があるとは知らずに、嫌な事を思い出させちゃったね…」
私の言葉に全力で首を真横に振る二人。
「私は逆に、もっと自分たちの事を姉さまに、知ってもらえてうれしかったよ!」
「私もトンちゃんと同じ気持ちです、聞いてくれて、知ってくれてありがとうございます」太陽の光に照らされた二人の顔は何よりも美しく、そして誰よりも愛おしく感じた。
何があってもこの笑顔を守らなきゃ。
私は心の中で決意を固める。
「それじゃ、行こうか」
私の言葉に頷き二人が後ろからトコトコついてくる。
今日、最後に向かう場所はもう既に決めてある。
時刻は、日が傾くか傾かないかの頃、本日最後の目的地に三人は到着した。
「姉さま、ここは…」
「お姉様…」
「うん、ここは…リリーナのお墓の前」私が今日の最後に選んだ場所は、二人の最愛の姉であったリリーナの墓前だった。
「どうしても、ここで二人に伝えたい事があってね、私の話を聞いてくれるかな?」
二人はお互いに顔を見合わせた後、言葉無くコクンッと頷いた。
それを確認した私はゆっくりと話を始めた。
「私が二人と出会ってから、それは衝撃の連続だったんだ、それと同時に如何に私が自分の物差しでしか世界を見ていないか分かったよ」実際そうだった、私は自分事しか考えてなかったし、世界や人々も延長線上の縮尺でしか見ていなかったんだ。
「でも、二人と出会って色んな世界や同時に考え方がある事も知った、まあ、たまに戦闘とは別で命の危険を感じるような事も増えたけどね」
はにかみながら話す私の言葉に、二人もクスクスと微笑んでいた。
「なんて言うんだろう、私にとっての日常が色づき始めたんだ」
目をつぶり三人で過ごした日々、冒険を思い浮かべる。
「すごく心揺さぶられる様な毎日だった、地味な私にはショッキングな出来事も多かったけど、それは私にとって足りなかったもの、正に陽だまりだったんだ」
笑って、泣いて、時に本気で怒って、二人と過ごした掛け替えのない時間を私の心と体が覚えている。
「そんな二人とこの先もずっと一緒に居たい、本当の姉妹として、そして家族として、だから…」
この先の言葉を口に出していいのか一瞬躊躇ったが、構わず続ける。
「私とエターナルバンドして欲しいんだ」言葉の指す意味をもちろん理解している、過去に私以外にその適任の相手が居た事も。
「もちろん、リリーナの事は分かった上で提案させてもらってる」
この間も、二人は真剣な面持ちでこちらの話を聞いている。
「私とエターナルバンドをして家族としての時間をこれから三人で一緒に紡いでもらえないかな?」
私は何を口走っているのだろう、立派な騎士を目指していた筈の人生だった筈なのに、目の前に居る二人に胸の内を告白をしている。
でも、これでいい、いや、むしろこれがいい、だって私が真に心から望んだ事なのだから。
例えここで断られたとしても、後悔は一切ない、…いや、断られたら流石にへこむか…
「喜んでその申し出受けさせてもらいます」「へっ?」
アスの唐突な言葉に私が素っ頓狂な声を上げる。
「だから、そのエターナルバンドの申し出、謹んでお受けいたします、ねえトンちゃん?」
「うん、私もその提案喜んで受けちゃう!」自分から提案した事なのに、二人から了承をもらえた事が信じられなかった。
急に込み上げてくる喜びに心が反応する。
「え、え、え!?それって、要するに…OKって事?え、え、え」
「はい、二人共にお断りする理由の方が見つかりませんので」
嬉しすぎて一人動揺する私、こんなに動揺するのは人生で初めてかも知れない。
だってそれだけ嬉しい事だからね。
二人が満面の笑みでその答えを物語っていた。
「それで、お姉様、私達の式はいつにしますか?」
「うんうん、式は何時にするの?」
もっともな疑問だ。
「うん、この戦いが終わったらすぐにでも式を挙げたいと思ってる、その為にも先ずは…」
「ええ、必ず明日の戦いに勝って、生きて戻りましょう」
「三人で無事に帰って、絶対に最高のエターナルバンドを挙げよう!」そう、式を挙げる為にも三人で生きて帰る、絶対にだ。
リリーナ、貴女が愛した可愛い妹達は必ず私が幸せにしてみせるよ。
だから安心してこれからも見守っていて欲しい。
私達は新たな決意を胸に、帰路についたのであった。
家の前に着くと、屋敷の入り口でマリエさんが私達を待っていた。
「おみゃあ達帰ってきたにゃりね、何かいい事あったのかにゃ?三人ともいい顔をしてるにゃ」彼女の事だから、どうせ全てお見通しだろう、現に顔がニヤニヤしていた。
「ま、細かい事はいいにゃ、おみゃあ達の為に今日はごちそうを用意したから喜んで食べるといいにゃ!」
ごちそう?盗んだ食材で作った訳じゃないよね。
「ルビー、おみゃあ顔にマリエちゃんが盗んだんじゃないかって書いてあるぞ!失礼にゃ!」
見抜かれてた…
そのやり取りを見て笑う妹達と一緒に室内に戻った私達は、豪華な食事と優雅な談笑の時間を十分に堪能した後、早々に就寝した。
徐々に明ける夜の静寂と漆黒、太陽の光が黄金色に大地を包み込んだ頃、遂に決戦の時がやってきた。
窓の外を見据える私は、心の帯をぎゅっと引き締めた。~続く~■FF14外伝 連続空想小説 最強最愛のビギナーズFF14の世界であるエオルゼアを舞台にしたビギナー姉妹とアクア・ルビーの物語。
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