第七星暦 二十年 霊二月 二十一日
刻:土の刻
月相:既望月
天候:雨
雨。
小金通りの石畳は雨に洗われ、静かに光を返している。
提灯の橙色が水面に揺れ、引き延ばされた金の糸のようである。
遠くの屋根瓦は薄霧に覆われ、海さえもいつもより低く見える。
今夜の月は、完全ではない。
雲は厚く、時折その裂け目から欠けた円が覗く。
その不完全な光のほうが、かえって目に残る。
完全なものは、あまりにも容易く信じられてしまう。
欠けているほうが、正直であるように思える。
……妙である。
私はいつも月を見てしまう。
イシュガルドでは、月明かりは石壁を白く照らしていた。
雲霧街では、月夜は冷えを意味していた。
五歳のあの夜も、月が出ていた。
扉の隙間から、光が床に細く差し込んでいた。
今夜、小金通りの石畳に落ちる雨音を聞きながら、
私はあの扉を思い出した。
ノックではなかった。
押し開けられたのである。
——止まる。
それが本当に記憶なのか、
後に組み上げられた像なのか、確信が持てない。
人は空白を埋める。
私も例外ではない。
整いすぎた細部は、現場らしくない。
あまりに鮮明な音は、幾度も再生された後のようである。
実際に起こったことは、
私の覚えているよりも、ずっと曖昧だったのかもしれない。
そもそも、月などなかった可能性もある。
雨音が強まる。
軒下で男が、港の検閲が厳しくなったと愚痴をこぼしている。
語調は大げさである。誰かに肯定してほしいのだろう。
「それで、何かあったのですか?」
そう返すと、彼はさらに話し始めた。
人は、中立に見える相手に言葉を預けたがるものである。
やがて雨は弱まった。
月が再び姿を現す。
雲の向こうに掛かる欠けた円は、
磨り減った徽章のようである。
この街に少し似ている。
明るく、華やかで、開かれている。
しかし、内側をすべて見せることはない。
私は、こういう街が嫌いではない。
光が本物であると信じさせながら、
影を証明することは求めない。
月は、かつて円満であった姿を思わせる光を、
束の間だけ夜に残した。
そして再び、雲に隠れた。
——セニエル・グスティーヌ