家業優先の両親の元に産まれた彼女は乳母に預けられ育てられた。
多くの上流階級や貴族が使用人や乳母が養育する環境でみられるように、実の両親や家族よりも専属使用人や乳母に対しての愛情が強いという人物は多く居るようで、彼女も似たような状況であった。
リノレイル家には初代から続いている事業のひとつに注文醸造がある。
これは、安定した収入源であると同時に現状のリノレイル家にとって頭の痛い事業でもあった。
理由は、初代から続く海賊との繋がりである、リムサ・ロミンサに帰属した以外の海賊も未だにこの事業の顧客であり、初代との「酒代を現物をもって支払いにあてるも良し」という契約が問題を起こすこともあった。
略奪品や価値の決めかねる珍品、略奪品も船ごとであったり、はては彼らの所有する海賊船そのものであったり状況は様々でそれにまつわる小競り合いや荒事も多い。
しかしてリノレイル家の使用人のほとんどが元兵士や冒険者で構成される、冒険者の素養である武力や胆力、交渉能力、商売や希少品に対するセンス等がこういった場合に重宝されるからである。
彼女の乳母も例に漏れず、冒険者であった。
それも当時は珍しいヴィエラの冒険者であり乳母の仕事を受けると彼女に徹底した教育を施した。
それはヴィエラ特有の生き残るための技術、外敵と戦う方法等で、優秀な戦士であり致死率の高い過酷な環境で生き残る為に磨いた技であり、それに加え外界を冒険して得た冒険者としての対応能力や教訓が彼女に教え込まれる。
普通の町に産まれついた資産家の娘という括りで見ればこれは間違った教育のように思えるが、ミコッテとて機敏な狩猟で有名な種族である。
この教育との相性は良かったようで、虐待ともとれるこの教育を受けて彼女は様々な状況で生き残る術を学んでいった。
また、他の使用人達も様々な武術や技術に長じたものが多く、それらも聞きかじりながら冒険者としての素養が磨かれる事になる。
幼少からの物覚えの良さが冒険者や兵士としての使用人達に気に入られかわいがられたのであるが、それは淑女として、商家の娘としてではなく、強く鍛造され鋭く磨かれた刃としてであった。
こうして、歪んだ環境が彼女を少し違う形で真っ直ぐに育てあげられたのは偶然であったのか、必然であったのかは誰にもわからないことである。