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【魂を紡ぐもの セイン】第一話『思慕のマテリア』(2)

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1-2

 弓が放たれる直前に、少年の身体に、岩がまとわりつくような幻視が発生したのを、ポポヤンは見た。
 同時に岩と岩がぶつかり合うような音が響く。
「ストンスキン?!」
 中位階の幻術士が使う、防御の魔法だ。
 驚くポポヤンの頭上を放たれた矢が通過して、少年に当たる――が、矢は少年には刺さらず、重鎧の装甲版に当たったときの様に跳ね返った。
「あっ!」
 ただし少年も無傷ではなかった。
 矢に刺されることこそなかったものの、衝撃のすべてが無効になるわけではない。見えない手で突き飛ばされたように丘に倒れ、矢の当たった脇腹を押さえてうずくまる。
「誰だあ!」
 ラージ・トゥイグの怒声を聞きながら、ポポヤンは周囲を見渡した。射殺せずに激昂したように見えるが気のせいだろうか。そんな男ではないはずだが。
 しかし、邪魔者と思しき男女が視界に入ったせいで、その違和感はポポヤンの思考から流れた。
「子供に矢を射るとは穏やかじゃないな、銅刃団」
 穏やかだが、咎める色を含ませた声を、男が発した。
 丘のふもとの街道沿いに立つ二人を、ポポヤンは素早く検分する。
 男はヒューラン、ミッドランダーだろう。ひょろりと背が高く、どちらかと言えば細身だ。
 黒髪に、黒い目。二十代半ばだろうか。淡々とした、歳に似合わぬ落ち着いた雰囲気の青年だった。
 グランドカンパニーの士官が着るようなコートによく似たコートを着ているが、ダークグレイのそれはどのカンパニーのものでもなかった。
 腰に剣を佩き、背に盾を背負っていることから、剣術士と知れた。
「銅刃団はいつでも穏やかにみえないがな」
 男の後ろから、女が茶化すように言った。
 女はミコッテ、サンシーカーだろうか。男の肩ぐらいまでの背だが、ミコッテとしては決して低くは無い。男の背が高いだけだ。
 青いメッシュの入った短めの黒髪に、濃いブルーの瞳。にやにやと悪戯っぽい表情は少女のようだが、どことなく老成した雰囲気もある、年齢不詳の女だった。
 黒い光沢のあるコート。その手は、大きめの本を掴んでいる。魔道書だ。
 剣術士と巴術師の二人組。つまりは、冒険者だとポポヤンは確信した。
「なんだテメエ邪魔すんなら容赦しねえぞ! ダック!」
 ラージ・トゥイグが叫んで、相棒の名を呼んだ。
 ようやく追いついたダック――グローリー・ダックは、腰の武器、バグナウを抜き放って男へと突進した。同時に、トゥイグも男に近付いた。ダックと連携して男を倒そうというのだろう。
「おうっ!」
 長距離は苦手だが、格闘の間合いでは機敏らしい。走り込んだ勢いを殺さずに、体重も乗せた鋭く重い一撃をダックは放った。
 だが。
 男はその拳を、あっさりと捌いた。
 打ち込んだ当の本人、グローリー・ダックが思わず息を呑むほどに、絶妙な受け流しだった。
――しかし、男の動きはそこでは止まらなかった。
「よっと」
 ダックの腕をつかみながら、その勢いに自分の動きも乗せて、その場で一回転してみせたのだ。
「おわあ!」
 大きくぐるりと回る羽目になったダックは、二人分の勢いを乗せられて止まるに止まれず、そしてそのまま男に押し出された。――トゥイグの方向へ。
「ちょ……!」
 虚を突かれたラージ・トゥイグは一瞬硬直し、ダックを躱せず、二人は激突して地面に転がった。
「ぐえ……っ」
「おふ……っ」
 うめき声をあげて、二人のルガディンが頭や腹を押さえてのたうつ。気絶するほどではないが、容易に立ち上がれるほど軽いダメージではなかったようだ。
 それを横目で見ながら、ポポヤンは少年へと駆け出していた。
――腕の一本くらいは覚悟してもらおう。
 曲刀を高く掲げるポポヤンは、自分の思考がおかしいことに気が付いていない。普段の、いや、数瞬前の彼ならば断固として行わない蛮行である。
 陽光を反射する刃を見て、立ち上がった少年が息を呑む。
 しかし、その一撃は振り下ろされずに終わった。
 ポポヤンには最初何が起こったのか理解できなかった。曲刀を振り下ろす寸前に、自分と少年の間に光り輝く大型の齧歯類のようなモノが割り込んできて――次の瞬間、自分は地面に転がっていて、しかもずぶ濡れだった。
 慌てて起き上がったポポヤンの目の前に、その獣がいた。否、それは獣ではなかった。
「カーバンクル……?」
 ポポヤンは混乱した。冒険者の二人組の内、女は巴術師のようだった。だから、カーバンクルが現れたことはいい。理解できる。
 だが、目の前のカーバンクルは緑でも黄色でも無く、鮮やかなサファイヤブルーに光り輝いていた。
 そして、解せぬことはもう一つあった。
 青いカーバンクルは、尻尾の先に“枝”が生えていたのだ。まるで、幻術士の持つ幻具のような枝だった。
 自分の知らぬカーバンクルがいたということなのだろうか。よく見れば、このカーバンクルは表情が他のものと違っていた。
 ツリ目で、口角の上がり方が挑戦的だ。
 そして――あろうことか、カーバンクルは笑ったのだ。声こそ発しなかったが、にやり、という意地の悪そうな笑みだった。
 悪い予感をポポヤンは感じた。その予感はすぐに現実になった。早すぎる具現化だった。
 びしゃあ! と大量の水の塊が放出され、ポポヤンを転がした。
「どわあ!」
 アクアオーラのような水魔法、とポポヤンが気付いた時には、駆け寄ったカーバンクルは三度目の魔法をポポヤンに放っていた。
「ぶがぼ!」
 顔面に水が直撃して、ころころとポポヤンは丘のふもと、自分の部下たちが呻いている場所まで転がされた。
 きししし、と今度こそカーバンクルは笑った。明らかにポポヤンをバカにした笑いだった。
「ぐぬぬ!」
 気が付けば右手は空になっていた。丘の半ばに転がった曲刀が見える。二度目の魔法を喰らったときに取り落としたのだろう。
「おのれ……ッ」
 頭を振りようやく体を起こし始めた部下たちをポポヤンが叱咤しようとしたとき、
 ぱん!
 と、男が手を叩いた。
 その音は奇妙に大きく響き、そして――場の空気を塗り替えたかのようだった。
「さて。ちょっと落ち着こうか、銅刃団のひとたち」
 そう穏やかな声で告げて、男は微笑んだ。
 不思議と、さっきまでの奇妙な焦燥感と闘争へ傾く気持ちは消えていた。
「とりあえず自己紹介しておこう。俺はセイン。こっちはルーシー。冒険者だ」

1-3へ続く

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