<幕間編 1へ> <目次へ> <第六話へ>それは霊5月(10月)中頃のある日の午後のこと。 アルザ王子とマテウス王子は
先代レオニア国王であり、祖父のビクトリウスに呼ばれ、彼の待つ部屋に向かっていた。
「おじい様が私達を呼ぶとは、いったい何の用事なのでしょうね?」
首をかしげつつマテウス王子はアルザ王子に尋ねる。
「大叔父様の冒険の話かもしれないね。 いつも新しい話が発表される度に
僕たちを呼んで、語って聞かせようとするもの。」
「そうかな? 『冒険王子の終わりのない旅』の新作がでたとは聞いていないし。
でもこうして私達をお呼びになったのだから、何かお話があるのでしょう。」
そう言いながら二人は城内を歩き続け、城の隅の方にもうけられた部屋にたどり着いた。
近くには見張りの兵士も侍従もいない。 アルザ王子は部屋のドアをノックした。
すると 「おう、来たか 入りなさい」 と言う声がする。
二人にとっては聞き覚えのある声、祖父のビクトリウスの声だ。
部屋に入ると、そこは小さな応接間のような作りで、部屋の中央にあるテーブルと
それを囲むように置かれた椅子が4脚ほど。 その一つにミコッテ族の老人が座っている。
テーブルの上にはティーポットとティーカップが3つ そして焼き菓子の盛られた皿が置いてある。
老人… ビクトリウスは立ち上がり、部屋に入ってきた二人を順に抱きしめ、到着を喜んだ。
「二人とも待っておったぞ。 元気にしておったかな?」
「はい、お久しぶりですおじい様。」
「僕たちはこの通り元気にしています。」
マテウス、アルザ王子の言葉を聞いてうれしそうにうなずくビクトリウス。
彼は王子達に席に着くよう促すと、ふたりと自分の前にティーカップを並べ、お茶をいれ始めた。
「おじいさま、それは私が…」
「よい。 今、おぬし達はわしの客人なのだ。 気にすることはないぞ。」
慌てた様子のマテウス王子にビクトリウスは答える。
「ところでおじい様、今日はどのような用件で僕たちをお呼びになったのでしょう?」
「それはな。 おぬしたちにわしの昔話を聞いてもらうためじゃ。 今のレオニアは
王位の継承権を持つ者が二人おる。 そのことについて、わしの経験を聞いてほしいのじゃ。」
「経験、ですか。 おじい様の代は王位継承者が二人…… 僕たちと同じ状況でしたね。」
「そう、わしと弟のリベリオの二人じゃ。 結果はわしがレオニア国王の座に着き、リベリオは
王族から離れ、冒険者になった。 おぬしらもいずれは選択せねばならない。」
「選択…… 王位に就くのは第一皇子とは限らないのですか?」
「そう、基本はそれであるが、王位を決めるのは継承権の順位ばかりではない。 王子達の能力や
積み上げてきた経験など、様々な要素を見比べ、王と宰相、大臣達が協議して決めるのじゃ。」
「じゃあ、おじい様の時は……」
「確かに当時のわしは第一皇子であったし、王位を継ぐにふさわしい能力を持つと判断された。
しかしな、第二皇子であったリベリオは わしより優れた能力を持つと判断されておった。
ゆえにリベリオが王位に就く可能性も十分にあった。
にもかかわらず、リベリオは王位を継ぐことをいやがり、あろう事かすべてを捨てて
冒険者になると言いおったのじゃ。」
アルザ王子とビクトリウスの会話をしばらく黙って聞いていたマテウス王子がふと口を挟む。
「それはいったいどうしてでしょう? おじい様から聞いた大叔父様の性格を考えると
そのように言い出すのは想像出来ますが。」
「そうじゃな。 リベリオは好奇心が旺盛で自由であることを好む性格じゃ。
彼が冒険者になる事を選んだのも、レオニアという小国で一生を過ごすのをよしとせず
広い世界に出て、自らの力で生きていくことを望んでいたのじゃよ。
もちろん当時のレオニア王や宰相達も反対した。 これまで王位を継承できなかった者は
貴族の一人として領地を分け与えられ、そこで生活するのが一般的だったのでな。」
ビクトリウスはそう言って自分のカップを手に取り、お茶を一口飲んだ。
そして二人にもお茶と焼き菓子をすすめる。
「レオニアは民の実力を重んじる。 たとえ身分が低い者でも実力を示せば、それに応じた
役割が割り当てられる。 限度はあるにしてもな。 たとえば宰相のルイスがそうじゃな。
あやつは隣国タイガルドの従者であったが、実力を示し宰相にまでなった。」
「国王になるには相応の知識と経験が求められる。 あらゆる事象から学び取れとルイスから
教えられています。」
「そういえばブラマールも同じ事を僕に話していたな。 あらゆる事象から学ぶ姿勢を大切にし
広い視野と深い知識を持つようにと。」
「うむ。 わしが言いたいのは、国王になるには相応の知識、経験、そして覚悟がいること。
それ以外の道に進むのもまた同様であるという事じゃ。 冒険者になったリベリオも
その場の思いつきではなく、考えた末に覚悟を決め、その道を選んだとみておる。
そなたらも、しっかり考えて決断の時に備えるのじゃ。」
「「はい!」」
そうして三人は夕方近くまで語り合い、それぞれ部屋を後にした。
その日の夜、自室で就寝前のひとときを過ごす王子達。
「王位を決めるのは継承権の順位だけでなく僕達の能力も見定めたうえで決めていく。か。
そうなるとアルザ王子も平等に見てくれるかな。 僕もルイスや周囲の期待に応えられるよう
頑張り続けないとね。 でも王になる以外の道か…… 僕には何がむいているのだろう?」
マテウスは机に向かい、読書をしながら将来のことを考えていた。
そうつぶやくと本を閉じ、就寝の支度を始めた。
一方アルザ王子は、自室の隣にある隠し部屋の机でうたた寝をしていた。
ダラガブレッドのに塗られた壁の部屋で、いくつもの本棚があり、机には魔道技術の本や
タイガルド王国の歴史書、王子自身が書き込んだと思われる書類の山などが積み上げられている。
夜の見回りに来たブラマール侍従長が部屋をノックし、返事がないことを知って入ってくる。
「またあのお部屋で一人勉強なさっていたのですね。 普段は私をいろいろと困らせてはいますが
その影で自身を磨く努力を怠らない。 ですがうたた寝は体に毒ですよ。」
そう言って身を起こそうとするとアルザ王子が目覚めた。
「…ブラマール? ああ、ごめん またうたた寝しちゃったんだね。 うん、ちゃんと着替えて寝るから
大丈夫だよ。 じゃあ、おやすみブラマール。」
「おやすみなさいませ アルザ王子。」
寝ぼけまなこで就寝の支度を始めるアルザ王子を見て、一礼をして部屋を出るブラマール。
その日の深夜………
見張り、巡回の兵士以外、ほぼ全員が寝静まった王城に 不審な人影が一人。
周囲を警戒しながら進む人影は、ミコッテ族のようだ。
「へへっ リベ爺の言っていたとおりだ。 お城の中に入れたぞ。
さて、僕にそっくりの王子様とやらは…。 確かあっちかな?」
そう言ってそのミコッテ族が向かうはアルザ王子の部屋。 途中巡回の兵士に見つかることなく
部屋にたどり着いた。
部屋はカギもかかっている様子もなく、するりと中に入る。
そして寝床で眠っているアルザ王子を見てつぶやく。
「本当だ、トーニャ爺の言っていたとおり僕にそっくりだ。 しかし間抜けな顔して寝てんな。」
次の瞬間、そのミコッテ族はエーテライト転送の時に見られる光に包まれ、その場から姿を消した。
明くる朝、普段より早く起床したレオニダス王はなにやら上機嫌そうな様子でブラマールを呼び
城の地下へ向かっていったという。
城に侵入したミコッテ族はいったいどうなったのだろうか?