クーナブリダはしつこい。めんどっちぃ。
ひたすら追いかけてくる。僕はナナシご主人様の命令通り、ゴミ拾いをしていただけの純朴なララフェルなのに、何その獲物を見つけた妖異の形相で追いかけてくる執拗(しつよう)さ。さては男にモテないだろ、お前。とか言ってみる。
どうも、冒険者なら誰でも使える魔法、「フォーカスターゲット」を使っているみたいだ。僕は使ったことないけどさ。
こっちはおたくから逃げるために、朝からフラットブレッド一個だから、倒れそうなのに…のんきなもんだ…。って、さっきからずーっと7時間ほどめっちゃくちゃ走ってるけどね!
あっ…ダメだ、何か食べなきゃ…。でもカバンの中、食べ物はカラッポ…。
塩でも良いから、舐(な)めたい…。甘塩っぱい、いなりずし…。
僕は、そこで意識がなくなった。
目を覚ますと、知らない、緑髪で優しげなオッドアイのエレゼン男子が僕を見下ろしていた。フォレスターともシェーダーともつかない容貌だ。
「お、起きたか。どうやら低血糖を起こしたみたいだな、少年」
「僕はこれでも中年だよ…」
起き上がりながら言うと、エレゼンは笑い、僕にメープルシロップを渡した。
「ポーションと混ぜてある。それを飲めば、回復するだろう。本来なら蜂蜜や、一番は専門に精製された糖の類がいいんだが、エオルゼアでは貴重品でな…手持ちにないんだ」
「ありがとう…。頂きます」
ゴクゴク飲んだら、妙な冷や汗も引いて、急に意識がはっきりした。生き返った!
「よし、その様子なら、もう歩けるな。でも、無理しないですぐ食事を取らないと、また倒れるからな?それと、肉類だけじゃなく、穀類を必ず食べろ。そこだけは気をつけろよ」
「わかった。助かったよ、ありがとう。…君は医者なの?」
「俺か?俺は…錬金術師だ。エオルゼアではな」
青年は笑った。
「あらら、随分と需要の低い、めんどっちいクラスを選んだもんだね」
青年が目を丸くした。ん?嫌味が過ぎたか?別にいいけど。だが彼は意外なことを言った。
「もしかしたら…いや、リシェス、【砂虫のリシェス・エリタージュ】だよな?君は」
「えっ?そうだけど?」
名前は魔法「ネームプレート」でわかるとはいえ、なぜ僕が自ら名乗ってる二つ名まで?と、彼はすぐにその疑問に答えた。
「フェイフから、聞かされてたんだ…」
どうも、このイケメン小僧とは、もう少し話をしなければならないようだ。
「よければ、食事をおごらせてくれよ、リシェス。フェイフのこともあるし、話がしたいんだ」
「…いいよ。でも僕は超のつく偏食だからな」
「はは」
パスカロンドブラザーズで僕らは食事をした。濃い緑の髪に黄色いメッシュの入った、顔立ちは整っているものの、ちょっと童顔のイケゼン(イケてるエレゼン男子の略)は、ストーンスープを一口飲んでから、しかめ面をして、その後取り繕うように爽やかに笑って自己紹介を始めた。猫舌らしい。
「俺は、リシャロワ。リシャロワ・ラアル」
聞いたことあるような、ないような。
「フェイフとパーティーを組んでたんだ。よく」
イケゼンがそう言う。なんか腹立つ。イケゼンって言うのがまず腹立つ。僕はマスタードエッグズのマスタードをペロペロしながら続きを聴いてやる。
「フェイフは、君の…恋人?」
僕はずっこけて、1個タマゴのかけらを落としてしまった。10秒ルールで拾って口に入れる。あとちゃんと否定しておく。
「違うよ。君って若いね。おじさんくらいの歳(とし)になると、女の人と官能以外で付き合えるくらいの貫録が出てくるんだよ。フェイフは親友だ」
「そうなのか…!」
僕にはリシャロワが嬉(うれ)しそうに見えた。何だこいつ?ロリ(ババァ)好きなの?キモイ。キモイ。キモイ。
「付き合いは長いけど、1度もそういう仲になった事はないから、心配しなくていいよ、坊や」
僕が安心させようとそう言うと、リシャロワは照れ臭そうに笑うだけだ。惚(ほ)れてるのか、マジで。いやだいやだ、これだから若造は。オッサン世代がもはや億劫(おっくう)なことにも熱心だねえ~。
「リシャロワ。君は知らないのか?フェイフがなぜ消えたのかを、聞かされなかった?」
「…何も。最後に手紙だけは貰(もら)った。『あなたの作ったお薬。いいと思うわ。もっとあなたらしく技術を発展させて、エオルゼアの病める人を救ってあげて』…それだけ」
僕らは食事を済ませると、うるさい酔っ払いをぶちのめし、静かになったところで、キャンプ・トランキルに向かった。ゴミを拾いながら歩く僕をリシャロワは不思議そうに見ていたが、問い詰めはしなかった。
「リシャロワ、君のバトルクラス、いや、ジョブはナイトなのか。ならさぞかしフェイフとは相性が良かっただろうね」
「あ、いや…実は、いつも叱られてばっかりだった。元々は槍術(そうじゅつ)から始めたし、不慣れでさ…『TANKなら、ちゃんと敵視を獲(と)ることに集中しなさい』って、いつも」
それはそうだろうなあ。さっきのFATEの立ち回りからしても、DPS寄りで全然敵視取れてなかったからなあ。時々僕へのヘイトが上がってヤバいときもあったし。僕自身が、フェイフがいなくなってからの短期間の修業と、あのナナシご主人様に奴隷のように従事した成果で、今は回復や補助魔法を使えるから勝てたようなもんだ。ナイトにしたって、まず基本のコンボが全くできていなかった。レベルが低いエリアだからって油断しているのか、それともクラフター三昧で戦い方を忘れたのか?
「最近ようやく、フェイフやメンバーを守れるようになって、自信が付き始めた。でも、俺がエオルゼアに来た目的は、自分の無学な医術に、錬金術を取り込むことだったから…」
キャンプ・トランキルは臭い。早く抜けてザナラーンに帰りたい。まだこの辺にあの変態…淑女のクーナブリダが、僕を捜して、うろついているだろうから。僕は独り言のように話す。
「あーあ、フェイフ、こんなイケゼンの彼氏ほっといて、異世界に旅立っちゃったのか。もう会えないなんて不確かなこと言いたくないけど、リシャロワの気持ちも考えれば、少しは踏み止(とど)まってあげてもいいのに。なんであんな無茶(むちゃ)を…こんな純朴なリシャロ君を愛していないのかねえ?」
足音が聞こえなくなったから振り返ると、リシャロワが、もう20歩くらい後ろで、突っ立ったまま顔を手で覆って号泣していた。器用に声を殺して。
「あ…ごめん」
と、一応謝ったものの、泣きやむ様子がないので、僕はこの歳になって、「真実」で人を傷つけてしまったことを後悔した。ほんの、少しだけ、気分良かったけどね…。さて、クーナブリダの件もあるのに、この純情青年を一体どうしたものやら…。
(BGM:「Battle Theme 1.x / 戦闘シーン1.X」「Bliss / 無常の喜び」「永遠に、レイチェル(FF6)」)