Personnage

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訪ねた先には おはなし9

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※今回、おはなしの中で暁月エリアのSSが含まれています。加工しておりネタバレにはならないかと思いますが、苦手な方は一番最後の画像は拡大非推奨です。



森へ向けて海岸沿いをしばらく歩き森の入口まで来ると、木造の古い家が見えてきた。
歩きやすい街道沿いではあったが、この辺りには人気はなかった。

古ぼけた家の前は草が好き放題に伸びている。手入れのされていないであろう外観はお世辞にも綺麗とは言えなかったが、その古めかしさはどこか威厳さえ感じられた。





「鼻水垂らしてた小さい頃から変な奴だったよ」と、北の都の店主が話した言葉に、妙ちくりんな人物像が思い浮かんでしまう。きっと仙人めいた人物がおわしますに違いない。
家へと向けて草をかき分けて進んでいると突然、大きなくしゃみが聞こえた。
綿毛を持った草が鼻をくすぐったのだろう、サメの大きなくしゃみに綿毛がぶわっと舞い上がった。


ドアの前へと辿り着くとドアが微かに開いている。
教祖が中にいるのだろうか。息を飲み込み、少し上ずった声でドア向こうへと声を掛けた。
「ごめんください」


しばらく待ったが、ドアの向こうからは何も返って来なかった。
どうすれば良いのかと立ちすくんでいると、足元から小さな鳴き声が聴こえた。声の主はリスのようだ。
何かを咥えながらドアの方へと進み、少し開いたドアの隙間から中へと入っていく。
刹那、それを追い掛けてサメがドアの隙間へと体をねじ込んでドア向こうへと行ってしまった。
「こら待って!」
叫んだ声はまったく届かずサメは家の中へずんずんと入ってしまった。

何度か家中へ声を掛けてみるも反応は無く、意を決して扉を開く。
「ごめんなさい、お邪魔致します」


家の中は、人が住めるはずが無いほど荒れ放題だった。
棚や椅子が倒れ、脚は所々折れてしまっている。
家具や床の上には埃が積もり、部屋全体はくすんだ色で覆われていた。

今一度、声を掛けてみるが部屋からは静寂が返ってくる。
サメの姿を探して回り、机の陰にようやくその姿を見つけた。

「勝手に入っちゃだめでしょ」
声を掛けながらサメの元へと行くと、気の抜けた顔でこちらを見上げている。そのヒレの先には怯えたリスがぷるぷると震えて同じくこちらを見上げていた。
意味が分からないが、恐らくサメは親睦を深めたいとヒレを当てているのではないか。

「…絶対に恐がってるよ」
諭すように声を掛けられるとサメは自信満々の様子で「めぇ」と応えた。全く伝わっていないようだ。

机の上に本の様なものが開かれている。ランタンを片隅に置いて、埃を掃って見てみるとそれはどうやら手記のようだった。


教祖の物と思われる手記の内容は、一つひとつは仕事や旅先での出来事を綴った短いものだったが、ページをめくっていくと、大きく「メテオ教」と書かれた見出しを見つけた。
人様のものを勝手に読むのは、はばかられるがそれでも読み進まずにはいられなかった。





緊張で少し震える指先で、埃で少しざらついたページをめくった。

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「ごめんください」
扉をノックするとしわを深く顔に蓄え、少し腰の曲がったお祖母さんが迎えた。

久しぶりですねと、にこやかに笑うお祖母さんは裁縫に長けており、隣街へ縫い上げた衣服や靴を売って生活している。
以前、布生地を隣街から買い付けて運ぶ仕事をしたことがあり、それからこうして顔を出していた。
「何か手伝える事はありませんか?」
問いかけるとお祖母さんは「そこの箱を上にあげてくれますか」と腰を押さえながら言う。
お祖母さんは高齢ながら大変元気であったが、体が思うように動かない事も多々ある。その為、立ち寄った際には出来ることを手伝っていた。


「あの子は元気ですか?」
お祖母さんに問いかけると、哀しげに微笑みながら力なく首を振って続けた。
「あまり良くないんです。お医者様も長くはないだろうと…今年が最後かも知れません」
言葉を紡ぐお祖母さんは次第に涙声になり今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

「そうですか…彼女に話をしに行ってもいいですか?」
「もちろんです、あの子も楽しみにしていますので。ありがとうございます…」
 
廊下を挟んだ先でドアをノックするとドア向こうから明るい声が返って来る。

「久しぶり。調子はどうだい?」
ベッドの中で座り笑顔をこちらに向ける少女は「おじさん、来てくれたのね!」そう言って前に訪れた時と変わらない調子で手を振る。

「とっても元気!」
少女も自分の体の事は良く解っているはずなのに、こちらへと明るく向けられる真っ直ぐな笑顔に「そうか、それなら良かった」と返す事しか出来なかった。


そのまっすぐで綺麗な瞳は、今はほとんど何も見えていないのだとお祖母さんは言った。
少女は生まれつき身体が弱く、陽の光に当たる事が出来なかった。身寄りのなかった少女はお祖母さんに引き取られ、この家に二人で暮らしていた。
床に伏すことも多かったが、それでも幼い時には陽が落ちると家の外へと抜け出し、お祖母さんの肝を冷やしていた。


海沿いの小高い丘の上にある家は街から大きく離れている。丘は年中、薄紫色のラベンダー畑が広がっていて、抜けるような空の青さにぽつんと建った小さな白い家の見える景色は、言い表せないほど美しかった。
時折訪れるのは、服と食料とを交換してくれる行商人や、旅支度に立ち寄る旅人くらいだった。
窓から見える丘を登って訪ね人がやって来ると、少女はそわそわと家の中を歩き回った。
そうして訪ね人の用事が終わるまで、そわそわしながら待ってから「おはなしを聞かせてくれませんか?」とお願いするのだ。

旅人や行商人は、自分の住む街や人々の生活を、今までに見た素晴らしい景色を少女に語って聞かせた。少女は身を乗り出しては話しに聞き入った。
私もまたそのうちの一人だったが、振り返れば初めて訪れた時には6つになったばかりだった幼子が大きくなるまで、長い付き合いになっていた。
話し終えると少女は必ず「大きくなったら私もいっしょに旅につれて行って!絶対ね!」と屈託なく笑う。

陽が出ている時には部屋に籠りきりだった少女は夜、星空を眺めるのが好きだった。
童話で読んだ世界の物語を、家へと来る行商から伝え聞いた街や人々の話を、旅人が語る旅路の冒険譚を、少女は夢想する。
見たことのない景色や感じたことのない香りや温度、話したことのない人々の生活を、星空いっぱいに思い描くのだ。


どこへも行くことの出来ない少女を、病はゆっくりと、それでも確実に蝕んでいった。


互いに挨拶を交わしてから間髪なく少女は「またおはなしを聞かせてくれる?」と微笑んだ。
もちろん、と頷いて話し始める。

「…仕事帰りにあった料理屋の店先に店長のおすすめと描かれた看板があったんだ。腹が減ってたからその内容をあまり深く見ずに店に入ってすぐ注文したんだ。君はまだ飲めないけれどブドウ酒がとっても美味しくてね、わくわくしながら料理を待ちわびた。それからしばらくして運ばれて来たのは何だったと思う?皿の上にカエルの足とかたつむりが乗っていてね、そりゃあもう驚いたよ。頼んだ手前、引き下がるわけにもいかなくて。それでも食べてみたら面白いと思ったんだ」
少女は恐るおそる「それで、どんな味がしたの?」と、先を促す。

「カエルの足はさっぱりしていて鶏肉にも似てるんだが、決して同じじゃなかった。かたつむりのほうも海の巻貝に味は近いんだけれど、森の薫りとでも言うのかな。とてもふくよかで奥深い香りがするんだ」
私も食べてみたい、と少女は天井を仰ぎ見て微笑んだ。

「次は緑深い森の奥に棲む人たちの話だ。海が近くにあるその村ではサメを神様として崇め奉っていた」

「サメが神様なの?」
少女は不思議そうに相槌を入れる。

「そうさ、でも深海に泳ぐ大きなサメじゃないんだ。洞窟の壁面に描かれた神様はおだんごみたいな大きさで、そこからひょろっとした小っちゃい手足が生えててね、陸の上を歩けるらしいんだ」
紙切れにその神様と呼ばれたサメの絵を描いてみせると、少女は「へんてこな神様ね」と、くすくす口に手を当てて笑った。





「またすぐに旅に出るの?」
話し終え、余韻に浸っていた少女は私に問いかける。

「そうだね、数日したら今度は魔女の住む村を訪ねてみるつもりさ。また旅の話を聞かせに来るよ」
少女はまた「いつかきっと、一緒に旅につれて行ってね」と静かに微笑む。

「…もちろん」
一体あと何度、このやり取りが出来るだろうか。俯いてしまいそうになるのを堪え、笑顔で手を振った。


それからまた旅を終えてこの家へと戻ってきた。
少女の話をすると村の魔女は目に効くまじない薬を作って持たせてくれた。魔女の老婆が話すにはごく僅かな時間だが目が見えるようになるという。

扉をノックすると「いらっしゃい、いつもありがとうね」と、少しやつれた様子のお祖母さんが出迎えた。
お祖母さんに具合を尋ねると「いつも来て下さる行商さんがここの所いらっしゃらないんです。私も足を捻ってしまって」
満足に食事を摂れていないのだろうその顔からは少し疲れた色が見えた。

お祖母さんは隣街からやって来る行商から布生地を買い付け、縫い上げた衣服を食べ物と換えて生活を送っている。
近くに街の無いこの家にとっては、道中で家へと立ち寄ってくれる行商人の存在は無くてはならないものだった。
数日置きに家へと立ち寄っていたはずの行商の姿がここ数週の間、見えていないようだ。

少女の様子を訊くと、少女の部屋のドアを開けてお祖母さんは言った。
「あの子はこのところほとんど眠っているんです。体調に変化はないんですが、日中起きている事は少なくなってきました」
ベッドに横になった少女は静かに寝息を立てて眠っていた。
思ったよりも病の進行が早まっているようだった。





「隣街まで行って様子を見てきます」
旅にと持ち歩いていた食料でお祖母さんに食事を摂らせてから隣街まで向かった。

街では以前、料理屋を営む老婦に手を貸したことがある。その後、仕入れや運搬を頼まれることもあり良く見知った街だった。

あの丘を越えればもうじき街が見えてくる。お祖母さんの所へ食材も少し買っていこうと考えながら歩みを進める。
丘を越え、眼前に現れた景色は思い描いていた物とは大きく変わっていた。



街は一面、地獄絵図だった。






Commentaires (2)

Macoco Moco

Yojimbo [Meteor]

閉じられてる部分は 回想なのか 日記なのか 現在進行形なのか…ドキドキする終わり方!

サメ成分薄めな今回なのに サメ君の正体にも 急展開⁇(ノ)・´ω・(ヾ)

よかったまだ続きがあるっw

Halloween Kelt

Tiamat [Gaia]

Mocoさん、コメントありがとうございます!!
閉じられた部分は教祖の手記であります!

おはなしはこれから一気に動いていきます!!
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