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【小説】月影挿話 第7話 痛恨の一撃

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月影挿話 第7話「痛恨の一撃」



 その夜、そこに居合わせたのは単なる偶然であった。
 密輸船の船長という稼業も板につき、エオルゼアを東奔西走していた頃のこと。その日のレキはベロジナ川東岸、ギラバニア辺境の最奥にいた。
「あ、じゃあ……ここに、そう、受領ってとこに、署名してください」
 端的にいえば荷物の配送というありふれた仕事の届け先だった。

 壊神ラールガーの巨像を抱く渓谷にあり、外界から閉ざされた僻地。もとより渓流のさざめきと瀑声だけが響き渡る星導教の忘れ去られた聖地であったのだが、今やそこには僧ではなく軍勢が集結している。
 ここラールガーズリーチは、二十年の長きに渡るガレマール帝国の支配に抗うアラミゴ解放軍闘士たちの秘密の拠点である。
 先日ついに、アラミゴ奪還へと動き出したエオルゼア同盟軍が国境を越えたとの報せを受け、壊神の足元はかつてないほどの熱気に満ちていた。
 
 今後の反攻の発起点となるべきラールガーズリーチだったが、同盟軍が占拠したバエサルの長城からの支援はままならなかった。なにせ、周囲は未だ帝国軍の支配地域が広がっているうえに、拠点の所在は秘密にせねばならず大規模な護衛も不可能なのだ。今日もまた複数の伝令や輜重隊から連絡が途絶えていた。
 そこで、エオルゼアの密輸業者にお鉢が回ってきた。
 帝国官憲の目を手を耳を搔い潜り、秘密の拠点へと荷を運び込む。これ以上の適役はいなかった。
 冒険者ギルド本部を経由しての危険な秘密輜重任務だったが、密輸船 “コズミキ・コニス号” の船主 “陽光の魔女” ミィはふたつ返事で引き受けた。いつものことだが、仮にも船長であるレキに相談もなく。
「うーん、でも……」
 さっと、手元の山から引き抜いたドローカードを指先でひらりひらり、と――
「ビエルゴの塔……正位置かな? 逆位置かな?」
 レキにはさっぱり意味がわからなかった。

 ともあれ、コズミキ・コニス号の船長レキは夜陰に乗じてベロジナ川河口から密かに上陸。数名の水夫とともにギラバニア辺境を一昼夜かけて北上し、ラールガーズリーチへと至った。幸いにしてその道中、帝国軍とは遭遇しなかった。
 アラミゴ解放軍に支援物資を届け、レキが受領の署名を受け取ったとき、日もとっぷり暮れて虫も鳴き始めていた。船乗りの直感通り、山の向こうから遠雷も聞こえる。
 否、雷鳴だけではない。
 突然の砲声、それに続く炸裂音。周囲に着弾、火の手が上がる。ワァという鬨が重なり、あちこちから剣戟の調べ。そして、絶命の悲鳴。
 帝国軍の奇襲だった。
 おそらく予兆も掴めなかったのだろう。混乱したまま応戦する解放軍闘士たち。しかし、帝国軍特有の連発銃の銃声はあまり聞こえない。
「貴様らとて、アラミゴ人だろうに!」
 誰かが怒鳴った。
 確かに襲撃部隊の多くは帝国軍装ではなく、アラミゴ様式。レキの知らぬことだが、敵主力は悪名高き属州民部隊 “髑髏連隊” である。
 そして、敵将は――
「あれは、まさか……ゼノス・イェー・ガルヴァス!」
 戦場に立つ黒い鎧の巨漢を誰かが見咎めた。兜の面で素顔まではわからないが、その甲冑だけでも正体の知れる彼らの怨敵。
 帝国軍第XII軍団軍団長、アラミゴ準州総督、ガレマール帝国皇太子、ゼノス・イェー・ガルヴァス。
 よもやの総大将臨場に解放軍は色めき立つ。ここで敵将の首級を挙げれば、この解放戦争は勝ったも同然なのだから。
 だが、希望は一瞬にして絶望へと転じた。
 一騎当千と謳われる暁の血盟の賢人ふたりがあれよという間に、敵将ゼノスの手によって斬り伏せられた。
 誰もが悟ってしまった。解ってしまった。この男には勝てない、と。

 天からは雷が降り、地からは火の粉が舞い上がる。
 吹き抜ける夜の谷風も熱を帯び、もはや腥い。
 混乱から立ち直った解放軍に撤退命令が伝わりだした。一日千秋の思いで待ち望んだエオルゼア同盟軍の来援を目前にして、アラミゴ解放軍が瓦解するわけにはいかない。
 応戦しつつ退く闘士たちに気づき、 “コズミキ・コニス号” の老水夫が怯えた声を甲高くひっくり返した。
「うちらも早く逃げましょうぜ、船長!」
 レキは、応えない。
「……斬る!」
 誰も彼もを無視して物陰から飛び出し、駆ける。疾く走る。理由も義理もなければ、口上なんて気の利いたものもない。それでも、レキはゼノスを斬ろうと決めたのだ。
 愛刀景秀を、抜き、跳び、大上段に振りかぶる。黒い鱗のしっぽがひょろりと舞った。まだ幼いあの日、初めて人を殺めた白刃を躊躇なく振り下ろす。
「ふん……」
 それは首肯であったか、嘲りであったか。あるいは、単なる呼気であったのか。ゼノスは一度納めた刀を抜くこともなく、ただ片腕を振るった。
 ただただ、それだけであった。
「ガッ!?」
 レキには何が起こったのかわからなかった。振るわれた腕は見えたが、そこに振り下ろした以上、せめて片腕は獲れたと思った。
 吹き飛ばされ、何かに背中を打つ。ぐるぐると目が回る。立ち上がることなどできない。あばらが折れ、肺も潰れ、血を吐いた。
 薄れゆく意識の中、ふと手の中の景秀を見やると、根本からぽっきりと折れていた。

 数刻のち、双蛇党衛生兵に救助されたレキは――
「……なんだアイツ、面白すぎ」
 と、血を流しながら笑っていたという。




つづく

月影挿話 第7話「痛恨の一撃」 主演:月の影のレキ



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