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【小説】月影挿話 第6話 蝶舞う花の耳飾り

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月影挿話 第6話「蝶舞う花の耳飾り」



 シタールの音色に合わせて、教えられた通りのステップを踏む。
 ひらひらした装束にも高めのヒールにも、もう慣れた。振り付けも拍子も間違ってはいないはずだが、店や先輩からの評判はあまりよくない。
 それでも、売れっ子のバックで踊っている分には食うに困らなかった。ただひとつ、気がかりなのは――
 今夜も寄せる、然る青年の熱い視線。



 その頃、海賊船という寄る辺を失ったレキはラザハンにて踊り子となっていた。前歴が前歴だけに仕事を選べる身分になく、最後は娼婦との二択であった。
 一方で兄は早々に食堂の厨房で働いていたので、レキだけが世渡り下手なのだとも言えた。
 ともあれ、酒場の踊り子となったレキであったが、評価は芳しくなかった。
 元より飛んだり跳ねたりは得意な方で、踊りそのものはすぐに覚えることができた。音楽を嗜まなくともレキは音痴というわけでもなく、節回しに合わせることだってできた。
 また、海賊船と比べれば躾というほどのものもない。太守の治世の行き届いたラザハンということもあり、はい、はい、と従っていれば給金もしっかりと支払われた。
 だが、レキには色や艶がなかった。そのうえ、よく見れば、肌のあちこちには古傷が幾らもあった。
 あるいは、媚というものがよくわからなかった。

 結果として、舞台の賑やかしを担うバックダンサーに落ち着いた。
 舞踊に明るい文人も好色な酔客も、そも誰しもが艶やかな花形に目を奪われ、レキの不愛想な踊りにも衣装に隠れた傷跡にも気づく者はいなかった――
 ただひとりの青年を除いては。
 聞けば、アウラ・レンのその彼はどこぞの商家の若旦那だという。
 色恋に疎くとも、気配に敏いレキはその熱い視線の意味を察した。レキも男を知らぬわけでもないが、改めて掌を見返すまでもなく、自分が何者であるかはわかっている。
 応えることなどできるはずもない。



 いっそ闇夜に斬ってしまおうかとさえ思ったが、一計を案じた。
「ねぇ、兄さん」
「なんだい?」
 海賊の頃も、足を洗った今も、大柄な兄はいつだって穏やかだった。レキが心を許せる唯一の男。
 その日、兄の勤める食堂が休みなのを承知で、レキは迎えを頼んでいた。酒場で踊るレキが宿に帰るのは朝靄も揺蕩う早暁である。
 早朝のバザールは開いている店もまばらだったが、何かしら売っているだろうと踏んでいた。
 ぐっと、兄の腕を引き寄せる。
「兄さん――アレ、買って?」
 妹のおねだりなんぞ初めてのことで、多少の戸惑いも見せた兄だったが、すぐに微笑んでくれた。
「コレかい? ああ、いいよ」
 珍しいねとも、どうしたんだいとも訊かずに、兄はそれを買ってくれた。ただふと目についただけの安い耳飾りを。
 それは、蒼いファレノプシスの耳飾りであった。
「ありがとう」
 と、左の角を差し出すレキ。
「どういたしまして」
 と、レキの角に耳飾りを付ける兄。
 ここで、気配が去った。酒場を出てから後を追って来ていた、彼の気配が。

 その夜から青年は酒場に姿を見せなくなった。熱い視線もなくなった。こうして、また、レキの踊りを見る者はいなくなった。
 数日後、レキは踊り子を辞めた。理由は、わからない。
 とにもかくにも、彼女は粛々と身辺を整理し、サベネア島を発った。兄には、向こうで落ち着いたら手紙を送るからと言い残して。
 アルネア島から乗り込んだ外洋船は、あの船と比べれば幾分もマシだったが、懐かしい嫌な臭いがした。
 深呼吸とともに、伸びをひとつ。腰には久しぶりに帯びる刀がひと振り、柄に手を置くと独り言つ。
「やっぱり、コレかな」
 潮風に撫でられて、蒼い花の耳飾りが踊った。それはまるで蝶の舞うよに。

 船の行く先は、エオルゼア。




つづく

月影挿話 第6話「蝶舞う花の耳飾り」 主演:月の影のレキ



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