
グリダニアのマーケットがある小高い丘。その正面入り口へ向かう所にある、なだらかな坂道。そこでは数多くの職人が道具を展開して様々な作業を行っている。
それは鍛冶師が金属を削る音だったり、木工師が木を切る音だったり、裁縫師が糸を巻く音だったり、調理師が肉を焼く音となって現われる。そして彼女も彫金師としてその坂道で作業をする職人の一人だった。
「この道、いつも作業音がすごいんだよね」
作業台の上でハンマーを叩く手を一瞬止めて、彼女はこちらを見ながらぽつりとそんなことを言った。深海のようなコバルトブルーに染まった作業服とターバンが、サンシーカーの白い肌とくっきりした目鼻立ちに良く似合っていた。
肉の焼ける香ばしい匂いを嗅ぎながら、賑やかでいいじゃないかと私は思った。
匂いの方を見やれば、あるミコッテの調理師が屋台を作って串焼きをその場で振る舞っていた。その周囲では何人かの客が美味しそうに出来たての串焼きを頬張っている。マッシュルームやドードーの肉など森の幸を利用した串焼きは、ミコッテ得意の伝統料理であるらしい。
夕暮れから夜にかけてマーケットに訪れる冒険者はとても多いようで、この通りの雑踏は非常に多い。職人たちがこの通りで作業をするのは、屋台も兼ねているという理由もある。
目の前で作業をしている彫金師の彼女の周囲にも、トルマリン、ブラックパール、スピネル、ターコイズ、アンバーなど、様々な色の宝石をはめ込んだアクセサリーが、何列にも綺麗に並べられている。
私はふと自分の人差指に目を移した。藍色に鈍く光るエーテライトリングは、私が成長した祝いとして彼女から貰った物だった。彼女には非常に世話になっていると思っている。
私が彼女に会いに来たのはマテリアを装着する為だった。成功率の低い、禁断のマテリア装着というものである。それを聞くと、彼女は少しだけ暗い顔になり目を伏せた。
「禁断かー……失敗するかもしれないけどいい?」
もちろん。わたしはそれに頷いた。
かくして私は三つのマテリアを渡したが、その中で装着が成功したのは一つだけだった。
確率としてはそんなものである。まあいいや、と思った。
私が屋台の前を立ち去る前に、彼女が一言声を掛けた。本当になんとなく口から出た一言に過ぎないようにも思えたが、なぜかその言葉は私の心の中に残った。
「ここほんと人多いよね。凄く重いし」
この通りに人がいなくなったらこの世界が終わる合図なのかな、と私は漠然と思いつつ、騒がしくも居心地の良い屋台街、いわば職人通りを後にした。
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マーケットの側ってたくさんクラフターの方がいますよね。