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小話: 明日咲く花の話をしよう

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 コンコン、と軽いノックの音がして、ふっと意識が浮上した。ゆったりと瞬きをひとつして、ミンフィリアは手にしていた書類から視線を上げる。てっきり室外から鳴らされたのかと思いきや、気づかぬうちに入り込んでいたらしい。少し開けられたままの扉の前、少し大きめのトレーを片手に持って、気障に微笑む男が居た。
「……返事をする前に入室するのは、礼儀としてどうなのかしらね」
「あいにくと、なかなか返事が無かったものでね。これでも随分と待ったんだが、さすがに少し待ちくたびれてしまったのさ。すまない」
「それは……こちらこそ、お待たせしてごめんなさい」
「いや、確かにレディの部屋に入るには、少し無礼だったからな。君が、『嫌なものは嫌』と言える、しっかりしたレディだと再確認できて何よりだ」
 気安い軽口の応酬のあと、サンクレッドがぱちりとウィンクをした。このあたりの、さらりとした後を残さない軽さ、口の達者さは、サンクレッドの持ち味のひとつだろう。ウリエンジェなら扉の外でずっと返答を待っているような律義さがあるし、タタルなら「集中しすぎ! 根を詰めすぎでっす!」と容赦なくミンフィリアを叱り飛ばすだろう。
 暁の中で一番小柄なのは当然ララフェルのタタルだけれども、一番怒らせると怖いのもまた彼女なのだ。
 思わずくすりと笑みを浮かべたミンフィリアに、一瞬だけサンクレッドが首を傾げたものの、気にせず流すことにしたらしい。わざとらしく、手にしたトレーを少しだけ掲げてみせた。
「すまないけどこの通り、手が塞がっているものでね。少しばかり机の上を片づけてもらえないかな?」
「ええ、お安い御用よ」
 砂の家の『暁の間』は、実質、ミンフィリアの執務室のような扱いとなっている。先ほどまで見ていた書類含めて、サンクレッドに見られて困るようなものはないが、当のサンクレッドとしてはいささか気になるところではあるのだろう。知らなければ、迂闊に話して情報を流出させてしまう心配もない。サンクレッドらしい用心深さだの表れだ。
 インクやペン壺を片付け、書類の山を崩れぬよう丁寧に脇へ押しやり、その上に先ほどまで手にしていた書類を裏返しておく。随分と雑な片づけだが、当座としては十分だ。
「お待たせ」
「いやいや、こちらこそ勝手に押しかけてすまないな。けど、どうしても君に、と思ってね」
 流れるような洗練された動作で、サンクレッドが机に歩み寄る。ふわりと空気が動いて、甘い果物の香りが僅かに漂った。
 かたり、と小さな音を立てて机の上に置かれたのは、可愛らしい花柄のカップだった。中で揺れているのはマルドティーだろうか。通常のマルドティーはスパイスの香りがするものだけれども、漂ってくるのは爽やかなミントと甘い甘い果物の香りだ。続いて置かれたのは、とろりとした紅色のソースも鮮やかなチーズケーキだった。これは相当お値段も張りこんだに違いない、そう確信できる逸品だ。
「……これは?」
「ピクシーベリーティーとロランベリーチーズケーキ。どうせだから手作りしてみようと思ったんだが、どうもうまくいかなくってね。慌てて街のお嬢さんたちに聞きまわって、それなりにいいケーキを買ってきたんだが……ベリーの味が被ってるな、すまない」
「あら、どちらも美味しそうだし、いいんじゃない? それにしても、あなたでも失敗することなんてあるのね」
「残念ながら。料理は得意だと思ってたんだがなぁ……」
 ぼやく声音に珍しく、本心らしい悔しさが滲み出ていて、思わずふふ、と笑みが零れる。器用万能な印象があったし、実際料理が出来るのも知っているけれども、ケーキ作りは別だったらしい。欠点というにはささやかすぎるけれども、自信があっただけに、本人としては納得がいかないのだろう。
 僅かに目を細めて、机のそばで見守ってくれている人を見上げる。
 頼れる仲間で、一番身近な大人で、兄のようで、それから。
「今日はプリンセスデーだからな。ひとやすみしたら、何でもご用命くださいませお嬢様」
「じゃあ、書類整理を手伝ってもらおうかしら」
「喜んで承りましょう」
「それから、少し早めに切り上げてウルダハに行きましょう? プリンセスデーなら、きっとたくさんのお花が飾っているのよね?」
「ああ、桃の花があちこちに飾られて、随分と華やかだったよ。……うん、護衛はお任せあれ」
 約束よ、と念押しして、カップを手にする。ふわりと春の香りがした。

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#エオルゼア版深夜の創作60分一本勝負
お題【執事】
3/4 21:20~22:50(+30分)
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