夜。
井戸の周りには、十人を越す人が集まっています。
みんな、ウルダハ都市部からわざわざやってきたようで、路上演奏でも待っているかのように楽しげです。中には座ってものを食べている人までいます。
「今日も出るかな、クリサンス」
「いいか、六だぞ。六まで数えたらすぐに逃げるんだ!」
「……?」
よくわからない会話にきょろきょろしていると、クァールマンの肩を誰かがポンと叩きました。
振り返ると、例の皿を売りつけられたあの男です。
「なんだ、あんたも幽霊見物に来たのか?」
「クァールマン オ皿 返シニ来タ」
「そりゃ偽物だろ。
……夢で見たお皿と同じだったって?
何を言ってるのかさっぱり分からないぞ。」
「幽霊見学 面白イ イベント?」
「……濡れ衣で殺された女の霊なんて、
悪趣味だと俺は思うがな。
庶民には、他に目新しい娯楽がないんだろ。」
男は嫌そうなため息で、幽霊の出現を今か今かと待っている人たちを一瞥しました。
「幽霊が出るという話の出どころは、その偽物を売ろうとしたあの商人だろう。
主人から預かった皿を数えているだけの幽霊なのに、
死んだあとも見世物にされるだなんて、可哀想に。
クリサンスの怪談っていうのは、ただ幽霊が出るという話じゃない。
皿を七枚数えるところまで見たら、熱病に。
皿を八枚まで数えるところを見たら、気が狂う。
皿を九枚数えるところまで見たら、殺される。
そういう尾ひれが話について、
六枚数えたところで逃げろーっていう肝試しで
こんなに人が来てるんだよ。」
「十枚マデ 聞イチャッタラ ドウナルノ?」
「クリサンスは皿を九枚しか持ってないんだから、
十枚目はない。
おっと……出てくるぞ……。」
わあっと歓声があがった中心の井戸から、なにやら妖気の霧がどろどろ溢れ始めます。
ヒュ~ドロドロドロ……
どこからかもの悲しげな音がして、髪の長い女性がすぅっと現れました。
「よっ、待ってましたー!」
「ウルダハ一の薄幸美人! イヨッ、クリサンス!」
下品な野次も飛んでいます。
売れないアイドルのミニステージみたいです。
「クリサン スゴク 嫌ソウ……」
「そりゃ、あんな顔にもなるだろうなあ……。
理不尽に殺されたうえに、
見世物なんかにされてるんだから……。」
それでも幽霊は、ポポト農園の使用人のように怒り出すでもなく、悲しげにお皿を数え始めました。
『一枚……二枚……』
始まった、と観衆が静まり返ります。
『三枚……四枚……』
誰かの固唾をのむ音がごくりと響きます。
『五枚……六枚……』
「今だっ、逃げろー!」
いい年こいた大人たちが、鬼ごっこをしている子供のように駆け出します。
その悲鳴に、『七枚……』という幽霊の声はかき消されてしまいました。
誰もいなくなった井戸の中で、半分透けた女性が、しくしく泣きながらお皿を数え続けます。
『八枚……九枚……』
『九枚しかない……おかしいわ、この前は確かに十枚あったのに……。
あと一枚は……どこへ……?』
「コレ?」
幽霊が重ねたお皿の上に、同じ模様のお皿がもう一枚差し出されました。
クリサンスの幽霊は、鋭い爪が生えた手の持ち主を見上げます。
長い二本の触角。
真っ黒でふさふさの毛と、急所を覆う硬い鱗。
鋭い牙に、赤く光る肉食獣の眼光ーー
クァールの顔の下だけが人間です。
人間の頭だけがクァールと言ってもいいかもしれません。
『ヒッ……!?』
「ク、クァールマン 怖クナイヨ!
クァールマン 人助ケスル イイクァールダヨ!」
「いやあ、今晩も無事に逃げられたな!」
「六枚、のタイミングって結構早いよなー。
もうちょっとゆっくり幽霊を見たかったのに。」
「美人だよなあクリサンス。主人に気に入られるのも分かるぜ……。」
「あー終わった終わった。それじゃあ、今日は帰ろうか。
みんなおやすみー。」
だらだらと解散する観衆の中を、あの男が忙しげに歩いています。
クァールマンを探しているのですが、暗闇でも見間違いのないあの特徴的な姿が見つからないのです。
「あいつ、まさか九枚数えるのを聞いてしまったのか……!?」
男が入ってきたナナモ新門を振り返ると、真っ暗な沙漠の中から、人ならざる者の影がヌゥっと現れました。
長い髭が、自慢気にピクピクと揺れています。
「あっ! あんた、無事だったんだな!
……どうだった? クリサンスの幽霊は?」
「ドウ?」
「いや、ほら、彼女は主人の皿が足りないことを今でも恨んでいて、
九枚数えるところまで聞いてしまったら、
呪われて殺されるって噂だったから……。」
幽霊見物を馬鹿にしていた男も、それは怖かったようで、六枚数えたところで、他の野次馬と一緒に逃げ出していたようでした。
「オ兄サン コレ 同ジオ皿 持ッテタ?」
「え? ああ、偽物のこれのことか?
高い金を払ったからって、偽物をずっと持っててもしょうがないし、
どこかの屑物屋にでも売りはらおうと思ってたんだ。
痛い出費だが、ウルダハじゃあ、偽物を掴まされたほうが悪いんだしな……。」
「クァールマン ソノオ皿 買ウヨ」
似たような意匠のお皿を見せあい、男は少し考えます。
「偽物っていっても、有り金叩いて買ったものだから、
少しは高く売りたいんだが……。」
「ゴ……500ギルデ……オ願イシマス……」
「ハハッ、あんたも金がないんだな。
じゃあ、俺の依頼を聞いてくれたら、
代わりにこの皿をやるってのはどうだ?」
「クァールマン 人間ナル 人ノ頼ミ イッパイ叶エル」
クァールマンがアピールするように髭をピクピク動かします。
どうやら、すごく頼られるイイクァールになってるいるときに、お髭が自慢をしてしまうようです。
「いい返事だ!
それじゃあ、失われたクリサンスの皿を、
一緒に探してくれないか?」
「オ皿 一枚デ イイノ?」
「ん? クリサンスの皿は、全部で九枚だが……。」
「クァールマン クリサンニ オ皿十枚探ス 依頼 受ケタ」
「そ、それはあさっきの幽霊からの依頼か!?
詳しく聞かせてくれ!!」
男は、やけに慌ててクァールマンに詰め寄りました。
次の日の夜です。
今日も、ポポト農園のお屋敷の裏の井戸に、人が集まっています。
クリサンスの幽霊が出るという噂が広まってからというもの、見物に訪れる暇人は日に日に数を増しています。迷惑をしている家の使用人がいくら追い払っても、胡乱な言い訳をしながら、みんなすぐに戻ってくるのです。
とっぷり日が暮れた今、二十人を越す庶民が、皿数え幽霊の出現を待ち構えていました。
「おっ、出そうよ……。」
「今夜も逃げ切ってやるからな!」
「クリサンスって僕のタイプなんだよね……。
皿を数える前に、握手してくれないかな~。」
さぁっと風が吹いたかと思うと、あたりの気配が変わります。
虫の鳴き声が止まり、薄ら雲が月を隠します。
ヒュ~……ドロドロドロ……
オリエンタル・フルートの細い音がどこからともなく流れてきて、井戸からは謎の妖気が霧となって這い出してきました。
その中からスゥッと現れたのは、長い髪の……
……クァールマンでした。
「ハジメルヨ……。
一枚……ニ枚……」
クァールマンは、危なっかしい手付きで、カチャカチャ言わせながらお皿を井戸の縁に並べはじめました。
一枚、二枚、三枚目を置こうとして、うっかり隣のお皿にぶつけてしまいます。
井戸の縁から落ちたお皿はガチャンと割れてしまいました。
「アッ 三枚メ……チョット待ッテ……
ト、届カナイ……ネエ、ヤバイ音 シタケド 割レタヨネ今?
ソウイウ細カイチェック イラナイ?
ゴメン、最初カラ 数エナオス。
一枚……二枚……三枚……四マ、アッ」
がっちゃん。
「ヤベッ、マタ割ッチャッタ……
残リアト 何枚ダロ……
ゴメン、ナンダカ テンポ悪イネ。
クァーリサン 一生懸命 数エルヨ。
一枚……二枚……三枚……」
クァールマンがお皿を数えていきますが、たくさんの人が見ている前で、三枚目を割ってしまいました。
九枚のお皿を重ねて出てきたクァールマンに、六枚目から先を数えることは、当然できません。
六マ~イ……と数えたところで手持ちのお皿がなくなってしまったクァールマンは、漫画表現みたいに焦ってあたふたとあたりを見回します。数えるお皿がもう手元にはありません。
ごくり……と違う意味で野次馬が固唾を飲んで見守っていると、クァールマンはどうしようかかなり悩んだ後、一枚目のお皿を遠慮がちに持ち上げ、そろそろと六枚目のお皿の隣に移動させました。
「ナ……七マ~イ……
八マ~イ……
九マ~イ……。
……オシマイ!」
観衆の間に、しばらく沈黙が落ちます。
「……ふざけんなー! クリサンスを出せー!!」
「俺らは美女を見に来たんだぞーっ!
すっこめクァール野郎!」
「そんな雑な幽霊の仮装があるかーっ!
その髪ミリオンコーンの髭じゃねーか!」
「せめてもっと怖そう演技しろやボケーッ!」
「初めてのおつかいレベルでハラハラしたわ!!
そういう趣旨じゃねーからコレ!」
アカウントペナルティという概念がないNPCたちは、ヒカセンだったら監獄に連れて行かれそうな暴言でも、容赦なくクァールマンに浴びせます。
飛んでくる小石に、クァールマンはうひゃあと手で頭を庇いました。右上の2カメ画面に映ったガイウス将軍(マスク有Ver.)が「所詮蛮族……!」とお怒りです。
「ク、クァールマン、クァールマンジャナイヨ!
クァーリサンダヨ! オ皿 数エル 幽霊ダヨ!」
「ネーミングから苦しすぎるわクソが!!」
「皿の九枚くらいもっとスムーズに数えろボケナスー!」
もはや会場はクァールマンを罵倒するイベントとなっています。
ちっとも似てない幽霊のふりをしたクァールマンは、みんな遠慮なく馬鹿にしていいムードになっていました。
その勢いに便乗して、全然関係ないのに、畑のポポトを引っこ抜いては投げ捨てるような暴徒まで出てきました。
そこに。
「あっ! 今度こそ本物のクリサンスだ!」
クァールマン登場時の効果音は、チャルメラのような締まりのないかんじでしたが、今度の寂しげなヒュ~ドロドロドロは本格的です。
濡れそぼった長い髪で顔がほとんど隠れた女の人が、クァールマンの隣に現れます。
「あっ……透けてる! 隣のやつと重なってるぞ!
やっぱりあれは、本当に幽霊なんだ……!」
「いよっ、待ってました真打ち!」
「今度こそマジの皿数えが始まるぞ!
みんな、静かに、静かに……!」
「六枚目を聞き逃すなよ……!」
期待に満ちた沈黙が落ちます。
か細い声は、耳元で囁かれているように、その場に居た人全員にはっきりと聞こえていました。
『……七枚……
……八枚……九枚……』
『一枚……足りない……』
「……えっ?」
観衆の誰かが短く声を上げました。
「“九枚”ッ……
まさか、数えきっただとッ……!?」
「馬鹿なッ!
最初のクリサンスは偽物……
本物はまた“一枚目”から数えるんじゃァないのかッッ!?」
『いいやッ“九枚”だッ! 私は“九枚”数えきったぞッ!!!!
さあ十枚目 次は
お前たちが数える番だッッ!!』
「ルールが違うッ! 必ず“一枚目”から数えるのがルールッ!
例外はないハズッッ!!」
『何か勘違い してやあしないか……?
私はちゃあんと一枚目から数えていた……
クァールマンと一緒に 自分の皿を数えていたッ!!
だから“七枚目”から始めたのだッッ!!
私の皿は“九枚”までカウント可能ッッッ!!!!
この皿が減ることは 一枚たりとてあり得ないッッ!!』
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
「クァールマンの皿は“割れて”いた……
実在する皿なんだ……
あそこで気づくべきだったッ! マズいッ!
〈クリサンス〉が襲ってくるッッ!!」
野次馬ともども急に作画が荒木飛呂彦になったかと思うと、クリサンスが空になった両手を井戸の縁に置きます。
そこに力を込め──片足をかけ、なんと、地面に降り立ちました。
全身びしょ濡れで、足に重たくまとわりついている給仕服のスカート……
一歩、また一歩、野次馬の方へよたよたと歩きだします。
クリサンスが一歩踏み出すごとに、水の入った靴が、ガポリ、ガポリと音を立てました。なのに、彼女が歩いた後ろに、濡れた足跡はひとつも残りません。
顔に張り付いた長い髪の隙間から、恨めしげな目がギョロリと覗いています……
『“九枚”……
数えたのを、聞いたな……?』
野次馬がこんなに集まったのは、クリサンスの幽霊が井戸から現れても、ただお皿を数えるだけの存在だったからです。
七枚、というカウントを聞けば、熱病に冒されるかもしれません。
ちんたらしてたら呪われて死ぬかもしれません。
でも、六枚数えるまでに、さっさとその場を離れたら、何事も起きないのです。
追いかけてきたり、急に至近距離に移動して驚かせたりなんていうことはしない、ある意味安全な幽霊だったから、みんな安心して見に来ていたのです。
それが今、歩いてこちらへやってくる驚異となって、人々に襲いかかろうとしています……。
「ひ──ヒイィィッ!」
「に、逃げろーーーッッ!!」
自分たちが六枚目のカウントで逃げられなかったことを悟った野次馬たちは、蜘蛛の子を散らすように走り出しました。
ところが、あんまり人が来ていたので、井戸の近くに居た人は、走ろうと思っても後ろの人が邪魔をして、逃げ出すことができません。
慌てすぎて、自分の足をもつれさせて転ぶ人も、数人いました。
その中の一人に、クリサンスの幽霊がゆっくりと近づいてゆきます……!
『一枚足りない……お前が盗んだのか……?
それともお前か……?』
「ヒエェ……ちっ、違う! 盗んだのは俺じゃねえ!
ころっ、殺さないでくれ……!」
『“九枚”……私はちゃんと“九枚”まで数えた……
十枚目の皿は──
貴様の頭蓋骨で作るとしよう!!』
異様すぎる形相で迫られたルガディンの大男は、あまりの恐怖に泡を吹いて失神してしまいました。
ズボンの股間部分の色が変わっているのは、クリサンスの髪からしたたり落ちた井戸水のせいだったのでしょうか。
それを見下ろした幽霊は、はぁとため息をつくと、顔にはりついた髪の毛を手で払います。
不快そうに眉をひそめ、髪をまとめて両手でぎゅっと水気を絞りました。
『フン、いい気味ですわ。これだけ脅せばもう来ないでしょう。
……あら?』
スカートの裾も絞った幽霊は、腰を抜かしている男と目が合いました。
「ハ、ハヒッ……こ、こ、こ、ころっ……殺さないで……。」
「ソノオ兄サン クァールマン 仲間ダヨ」
『あら、そうなのですか?
別に、何枚数えてたって、呪い殺したりはしないのですけれど……。
一体どこから出た話なのでしょう? まったく迷惑でございますこと。』
悩ましげに顎に指を添えた幽霊は、反対側の手でクァールマンの毛皮をもふもふしています。
ミリオンコーンの髭のカツラをかぶったままのクァールマンと幽霊を見上げ、男の口元が、中途半端に笑ったかたちで引きつりました。
『見物客を追い払うだけでなく、お皿を探すことまでお引き受けいただき、
本当にありがとうございます……。』
改めて自己紹介をしたクリサンス──の幽霊は、丁寧にお辞儀をしました。
「皿を探すっていっても、あんたはもう九枚持ってるから、
残りの一枚を見つけたらいいのか?」
ガーデナーと名乗った男が、割れたお皿の欠片を拾っているクァールマンを横目に質問しました。
『いいえ、あなた様がたがお持ちのお皿と合わせて、あと八枚ですわ。』
「俺のこれは本物なのか?
それでも、あと八枚だと勘定が合わないんだが……。」
井戸の縁に並べられた高級そうなお皿を、クリサンスの幽霊が物憂げに見つめます。
『これはお皿の幽霊ですの。実物はいずこかにございましょう。』
「皿の幽霊って……。」
『これが実物でしたら、私はすごく頑張って井戸の中で足を突っ張らせ、
重さに耐えなければなりませんわ……。
生前から、そんな立派な太もも筋はしておりません。』
ずっと井戸に足を突っ張らせて幽霊のモノマネをしていたクァールマンの太もも筋は、それはそれはパンパンです。
「……まあ、言われてみたらそうだな。
ってことは、あんたの雇い主が手放したものを探せばいいのか。
だったら、俺たちがこの皿を買った商人に聞けば、話は早い。
ところで……これは本当に本物なのか?」
『死ぬ直前に洗っていたお皿ですもの、
見間違うはずがありません……。』
「うーん、あの商人の態度は、どう見ても
偽物を高く売りつける詐欺野郎だったんだがなあ……。」
『あら、見て分かる詐欺野郎でしたら、なぜ購入なさったのです?』
「いやまあ……探してた皿に似てたもんで……。」
言葉を濁したガーデナーは、話題を変えるかのようにクァールマンの持っていたお皿を手に取り、二枚を並べてみせました。
「しかし、十枚組の皿っていうのも、なんだか中途半端な数だな。
この二枚の皿の真ん中の絵は、十二神のものだけど、
十枚揃えで造るなら、こういった柄は選ばないような……。」
お皿の縁の緑色は細い金色の線で区切られていて、真っ白な中心部の円の中には、エオルゼアでよく見かける神様の絵が描かれています。
『元は、十二神に対応した十二枚組のお皿だったのです……。
でも、そのうち二枚は、私のご主人様が、
毎年新年に披露する『ギリギリ! 見えないお皿芸』に失敗して
割ってしまいまして……』
「……それなのに、たった一枚失くしたくらいのことで、
あんたは井戸に突き落とされたのか……。」
『理不尽でしょう。亡霊になりもしますわ……。』
「クリサン 聞ケバ聞クホド 可哀想」
「まったくだ……。
よしっ! 手がかりもあることだし、早いところあの商人に
残りの皿のことを聞いてみるか!
もしかしたら全部持ってるのかもしれない。」
『私、もうお皿を数えるのに飽き飽きしております。
何度数えなおしたって、九枚が増えることなどないというのに……。
なんか雰囲気出るから一枚一枚ゆっくり数えて見せましたけれど、
こんなもん、三枚飛ばしで指で数えたら、
三、六、九と二秒で終わる枚数なので……。
どうか、私の心残りを晴らしてくださいまし。
死んでから皿を数えてもしょうがないというのもありますが、
あれは……奥様がとても大切になさっていたお皿なのです……。』
「あんたのご主人様とやらは、そんな大切なものでギリギリ裸芸をして、
そのうえ二枚も割ってたのか……。」
『人殺しですもの。裸芸くらいするでしょう。』
「いや、人殺し全員が裸芸をしたりはしないんじゃないかな。
……じゃあ行こうぜ、クァールマン。」
都市部まで歩いていく途中で、クァールマンはガーデナー無邪気に尋ねました。
「ガデ、ギリギリ見エナイオ皿芸ッテ ドンナ芸?」
「うーん……さっきの会話で察するのが、人間ってことじゃないのかなー?」
「クァールショック……。
クァールマン、自分デ思ウホド 人間ジャナカッタ……」
ガーデナーはクァール柄の腰巻き一枚のクァールマンに、
「お前の目に人間はどう映ってるんだ?」と呆れました。
そろそろ日が昇りそうな時間になりました。
ルビーロード国際市場はまだ静かで、貧民のボロをまとった老人が、箒で通りの掃除をしている他に、人影はありません。
「さて、あの詐欺師が今日も同じ場所に店を出してくれたら助かるんだが……。
……お、警邏の不滅隊だ。」
通りの向こうから、武器を携えた人たちがやってきました。
毎日大きなお金がやりとりされる場所とはいえ、こんなにしんとしている時間に、なんだか物騒です。
ガーデナーは気軽に不滅隊士を指差して、
「いちおう、詐欺師の話だけ伝えておくか。」
とクァールマンに言いました。
ところが、こちらが声をかけるより早く、不滅隊士のほうがこちらへ一直線にやってきます。
「むむっ、緑の縁の皿……!
報告にあったものと一致する!
貴様らが高級皿持ち逃げ犯だな!?」
「ええっ!?
も、持ち逃げって……!?」
「例の犯人がいたぞーっ!
集合、集合っ!」
鋭い警笛の音に、一小隊が集まってきます。
不滅隊は、クァールマンが持っているお皿を目にすると、急に警戒して武器をつきつけてきました。
「お、おい! ちょっと待てよ!
皿の持ち逃げなんて、濡れ衣だ!」
両手を上げたガーデナーが必死に主張しましたが、
「いーえっ! あなたたちが持ち逃げ犯で間違いないっ!」
と一人のララフェルが指をさしてきます。
「あっ! お前は詐欺商人!」
「ふん、持ち逃げ犯に詐欺呼ばわりされるいわれはありませんね。
不滅隊士さん、そいつらをとっ捕まえてください!」
「くっ……不滅隊を買収したのか!」
「だーかーらー、うちはそんな悪徳な商売はしないと言ったでしょう!
それは紛れもなく本物のクリサンスの皿!
私がつけた値は50万!
それを偽物だなんだのと言いがかりをつけてきて、店の守衛を叩きのめし、
代金を支払わずに持っていったあなたたちは、
持ち逃げ犯じゃなかったら、一体なんですかっ!」
「偽物を売りつけようとしたから、
どさくさに紛れて逃げたんじゃないのか、この詐欺師め!」
「うちの店が取り扱ってるのは、どれもこれも割れやすい焼き物ですよ!
乱暴な客の腹いせで壊されないよう、守衛が時間を稼いでいるうちに
大切な商品をささっと別の場所に運んで守っただけです!」
「くっ……すごく怪しかったくせに、
じつは普通に商売をしていただけだと……!」
「売れそうなものを熱心に売り込む商売人の、
どこが怪しいっていうんです!」
地団駄を踏む商人の言い分に、不滅隊も
「おとなしく投降しろ!」
と武器を持つ手に力がこもります。
「いや……待て!
お、俺はちゃんとこの皿を70万ギル出して買ったぞ!
金を払わず皿を持ち逃げしたのは……こいつだけだ!」
「エッ!?
コノオ皿 モラットケッテ言ッタノ ガデダヨ!?」
ガーデナーに指さされたクァールマンはびっくりして経緯を確かめようとすると、ガーデナーはこちらに顔だけ向け、片目をしきりにつむってなにかの合図を送ってきました。
クァールにとって、ゆっくりしたまばたきは、愛情を示すサインです。
(ガデ……クァールマンノコト ア・イ・シ・テ・ル……!?)
クァールマンの背景がピンク色に変わり、ときめきハートが飛び交います。
「……確保!
よし、取調室に一緒に来てもらおうか」
その両腕に、無情に縄がかけられ、クァールマンは一人だけ不滅隊に連行されていきました。
^ ^
▼~(=○ω○=)~▼ クァールマン ドウナルノ…