Personnage

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【RPSS】霊1月、そこに存在する自我。

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【2月のカノエ絡みのまとめです。自キャラ同士の話多め】




目を覚ますと、知らない家の庭にいた。
いや、本当は、眠っていたのかどうかも分からなかった。その青年、コウ・エン・カノエは、気が付いたときにはその畑の前に佇んでいた。知らない作物が植わっていて、知らない案山子がこちらを見つめていた。
晴れやかな午後だった。軒下には洗濯物が揺らめいている、小さな一戸建て。一体ここがどこなのか、見当もつかなかった。庭から入り口に向かい、門から石のステップが続いている瀟洒なドアの前には、看板が立てられている。
「バー・マッカロッカ?」
聞いたことのない店だった。店だけではない。この風景も、道を歩く人々の顔も、何もかもがはじめての風景。
「うーん、お店だったら、中に入ったら教えてくれるっすかね?」
分からないことだらけの状況で、困り果てた青年はドアノブに手を伸ばした。鍵がかかっていたらその時だ。近隣に助けてもらうとしよう。初対面の人間に親切にしてもらう愛嬌には自信があった。
「……あれ?」
ドアノブに触れようとした手は、あっさりと空を切った。何度やっても同じ。不可解な現象に困惑しつつ、挙動不審にばたばたと手を動かす。
そうこうしているうちに、晴れやかだった天候が怪しくなってきた。暗雲が空を覆ってゆき、ぽつり、と空から雨が注いでくる。不思議と寒さは感じなかった。それどころか、身体が濡れるような感覚すらない。
「ええ、どうしよう……あ、洗濯物、濡れちゃうっすよこれじゃあ…」
中の人間は雨に気付いていないのだろうか?せめて取り込まないと。せっかく乾いたふかふかのタオルが台無しになってしまう。青年は慌てて庭の端に駆け寄り、洗濯物に手を伸ばした。
「うわあ!」
洗濯物を掴もうとした手はまたもや空を切り、ふわりと身体が転がった。不思議と痛みはなかったが、それどころではなかった。目の前にあったのは濡れた芝生ではなく、薄暗い階段と積まれた本だったのだから。
「ええ……俺、透けてる……?」
上半身が壁にめり込んでいるのが分かる。下半身は庭でじたばたしているのだろう。
どうしてこんなことに、と、間抜けな体勢のまま途方に暮れた。目が覚めてからおかしなことだらけだ。夢中夢というやつだろうか?早く部隊の固くて狭いベッドに戻りたい。
「……部隊……あれ?俺、そういえば……」
左のこめかみに手を伸ばす。でこぼことした傷の感触があった。生前にこんな傷を抱えていた記憶はなかったが、その原因には心当たりがある。
「……そっか、俺、死んだんだっけ」
そこに辿り着くと、少しだけ落ち着いた。それなら自分のこの身体にも納得がいく。実体というものがないのだろう。
「だとしたらここはどこなんすかねー、幽霊のお宅訪問、やってみますかねー」
下半身を壁から抜くと、薄暗い階段が地下に続いていた。営業時間外だからか、1階に人の気配はない。無遠慮に地下に降りると、テーブルが一つと、いくつかの椅子が乱雑に並べられていた。部屋の隅には仮眠用らしき小さなベッド。そしてそのベッドの上には――、
「……隊長?」
ツァウル・エン・サティス。帝国軍辺境砦防衛第Ⅷ小隊の隊長。自分の上官、その人だった。自分が死の間際まで通信で会話をしていた男が、そこで寝息を立てていた。記憶よりも少し老けて見える寝顔をまじまじと見下ろして観察していたが、少しの間をおいて、伝えなければならないことを思い出す。
「……あ、洗濯物!隊長、雨っす!洗濯物!」

***

「……飲みすぎた」
「水飲みます?」
「いらん」
「なはは、まあ用意できないんすけどね、俺」
「……」
およそ人を見る目ではない表情で、男は青年を睨んでいた。
「ついに幻覚まで見えるようになった」
「ええ、幻覚?どこっす?どこどこ?」
きょろきょろと辺りを見回す青年に、呆れたように溜息をつく男。
「自覚がないのか…」
「……え、もしかして俺のことですか?」
「他に誰がいるって言うんだよ」
暫しの沈黙が場を支配する。青年は寂しそうに微笑んで、小さく首を横に振る。
「俺は幻覚じゃありません。それだけは誓って言えますよ。証拠だってあります」
「証拠?」
「はい、死んだときの記憶です。……あの時、隊長とお話はしてましたけど……俺がどうやって死んだかまで、隊長は把握してないでしょ?」
「……俺の妄想だという可能性は?」
「なはは、そこまで言われちゃったら、何も言い返せないっすけどね」
それでも俺はここにいます、と、青年は呟いた。話題に不釣り合いなほどの陽気な笑みを向けながら。
「あー……まあ、何だ……」
男はきまり悪そうに口を開く。彼が昔からこういう風に場を濁すのを青年は理解していた。そういう時は決まって無言で、言葉の続きを待ったものだった。
「そこまで言うなら、この敷地にならいても構わんから。畑でも見ててくれ。で、用が済んだら消えてくれ」
視線を逸らしながら男は立ち上がる。テーブルに散らばっていた書類を手に取り、とんとん、とまとめた。
「仕事で空けてることも多いが、くれぐれも悪さするなよ」
「えへへ」
「どうした?」
「幻覚に悪さはできないっすよ」
「……チッ、」
存在を認めたことに、どうやら男は気付いていなかったらしい。脳天気な声を投げかけて、舌打ち混じりに部屋を後にする背中を見送った。
「変わってないっすねえ」
その声を聞くことが出来る者は、もうこの建物の中にはいなかった。

***

その日も青年は、洗濯物を眺めていた。ラベンダーベッドは突然雨が降り出すこともあり、そうなったら中にいる男に報告することになっている。取り込むこともできないのに洗濯物を監視させることに意味があるのかは甚だ疑問だが、男は青年に、「とりあえずの存在理由」を与えておきたかったのだろう。
「……暇っすねー」
春に差し掛かった日差しが燦々と降り注いでいた。この土地のオーナーである男……かつての青年の上官はどこかに出払っていて、青年は話し相手もおらず退屈を持て余している。
「……あ、隊長だ」
店先から転移の音が聞こえると、尻尾を振る犬よろしくそちらに視線を向けた。ばたばたと大きく手を振り、嬉しそうに駆け寄る。
「……と、あれ?美人さんっすね、隊長も隅に置けないな」
男の傍らには、赤い髪の女性の姿があった。年は青年より少し下くらいだろうか。人懐こい笑みを向けながら、青年は女性に頭を下げる。
「……見えるか?」
「はあ?何言ってるんだ、オルヴァさんの知り合いだろ、どう見ても」
男が女性に尋ねる。女性はそれに対して怪訝な顔で答えを返す。彼女には青年が見えているようだ。
「フォーマイスの結成の前日のことだ……。とうとう幻覚が見え始めたかと思っていたんだが……まあいい、他のやつにも見えるってのが分かった。それだけ確認したかったんだ」
男は諦めたように溜息をついた。彼にとっては自分の幻覚であったほうが、まだ対処の仕様はあった。医者にかかって薬をもらって、しばらく無視を決め込めばいい。しかし他の人間にも彼が視認できるとわかった以上、”現象”として対処しなければならなくなる。
「……隊長とか呼ばれてるけど」
「隊長なんだよ、こいつにとって俺は」
「……だから、隊長のやり直しをするオルヴァさんの前に現れた……?」
「知るかよ」
フォーマイス。ウルヴズジェイルでチーム制対人模擬演習が始まるのを受けて、男が発足させた組織。
かつて部隊を率いて、壊滅させた男が再び小さなチームを作ろうとする理由は、言ってしまえばリハビリのようなものだった。誰かを率いることに対する恐怖、味方を失う恐怖。そういった精神的な怯えを払拭するのに、同じことを繰り返す。演習ならば味方が死ぬこともない。
そんな心に呼応するように、かつての部下が甦った。そう言いたげに女性は呟いた言葉を、男は雑な言葉で遮る。
「君は、自覚があるのか」
女性が青年に歩み寄る。青年は首を傾げ、きょとんとした顔をする。
「自覚?」
「……いや、変な事を聞いて、悪いな」
「……会話も出来るのか…」
「オルヴァさんだって話せるんだろう」
「自分の幻覚とはそりゃあ話せるだろう」
「……それは、そうか……でも、幻覚じゃなくて……」
「俺は幻覚じゃないですよ。ちゃんとここにいますって」
存在認知を巡る堂々巡りだった。一番必死に否定したがっていた男は諦めたように溜息をつき、
「……と、こう主張してるもんだから、誰かに見せて確認しようと、そういうわけだ。悪いな、付き合わせて」
強引に話を終わらせた。彼女が見えると主張する以上、幻覚ではありえないことを認めるらしい。それでも多少は、腑に落ちない様子だったが。
「……お暇しておくよ。オルヴァさんの幻覚ではなく、俺にも見えてる。それだけは確かだ……」
そう言い残した彼女は、品の良さそうなワンピースを翻して歩き去って行った。

「美人さんっすねえ。どこかのお嬢様っすか?きれいな格好で……あれ?ていうか隊長もなんで今日はキメッキメなんすか?」
乾いた洗濯物を取り込みながら、男は溜息を漏らす。
「ドレスコードだ、どちらも。お互い少し仕事で関わることがあってね」
「へえ、へー……へー……?」
「ああもう、仕事もできんならあっちに行ってろ」
「えー、ひどいっすよー、ちょっと話聞かせて欲しいんですけど」
「大した話でもない」
「大した話っすよ。俺、隊長が”あの後”どうしたのかとか、何も知らないっすし。今の隊長がどういう人達と、どういう仕事をしているのか……知りたいんです」
「……あー……」
男の表情が俄に曇り出す。青年が自分の死を連想させる話題を振ると、きまってこの表情になるのだった。
「きちんと話すよ。少しずつ、な」
「えへへ、待ってるっす」
籠に放り込んだ洗濯物を持って、店に入るとマスターが立っていた。どうやら店が開くらしい。
酒を2つ、男はマスターに注文した。一人で飲むつもりなのだろうかと、青年を視認できないマスターは不思議な顔をする。
「隊長、俺、飲めないんすけど、物理的に」
「いいんだよ」
地下の机に並べたグラス2つ分のウイスキーがからからと音を立てる。
「あの、飲めないんすけど」
「うるせえな、乗っかれよ……」

青年の言葉に呆れながら、男はかつん、と、片方のグラスに自分のグラスをぶつけた。
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