登場人物紹介
http://jp.finalfantasyxiv.com/lodestone/character/2062603/blog/2751329/ 「ねえラカくんあれ見て、あれシャヤヤさんじゃない?」
セセノが俺のトラウザーをぐいぐいと引っ張って遥か彼方を指さしている。セセノが指差す方向を見やると、そこには確かに見覚えのある黒ローブが単独で行動している。相方であるミコッテの学者の姿は見えない。以前は見かけると必ず二人で行動していたものだが、最近は単独行動しているところを目撃することも多い。
黒衣森の東部、茨の森と呼ばれている辺りだ。その名の通り、周囲には薔薇を思わせるようなトゲトゲした突起が突き出ている植物で覆われているのだが、なんだか無駄に巨大な植物ばかりなので、我々ヒトにとっては逆にそれほど驚異とはならない。俺にとっての驚異はむしろ目の前にいる小さな女の子だ。
「ラカくん、ちょっと尾行してみようよ。」
「…尾行なんかしてどうするんだよ?」
「だってほら、あっち大聖堂があるでしょ?」
セセノの言葉に俺は視線を上げてみる。トゲトゲした突起の巨大植物が我こそは地上の覇者なりと言わんばかりにその枝を好き勝手放題伸ばしているその隙間から、石造りの独特な形状の塔が見え隠れしている。この森に来てからも何度も目にした建造物だ。確か初めてザナラーンで出会ったセセノと黒衣森に入った時も、彼女と一緒に遠くからこの塔を見た記憶がある。
「なるほどな、言いたいことは分かったが…いいのかそんなことして?わざわざ一人で行くくらいだ、そういうのは謹んだ方が…。」
「ん~、いいのいいの、ちょっとした好奇心!」
「いいのかなあ…シャヤヤの奴結構そういう尾行には敏感に気付きそうなんだが…。」
俺の意見も聞かずもう尾行する気満々でいるララフェルの小さな女の子は、その顔面いっぱいに好奇心と呼ばれているものを貼り付けている。その他には悪戯心と呼ばれているものも僅かばかりに見える。こういう顔をしている時のセセノはだいたいこちらの言うことには耳を貸さないので、仕方なく俺もセセノと共に遠目に見えている黒魔道士のララフェルを尾行し始める。尾行と言えばそこそこ斥候能力が必要ではあるのだが、俺もセセノもそれほど隠密行動に長けているわけではない。むしろ尾行対象となっているシャヤヤの方がそういった能力には長けているのではないのかとさえ思える。
シャヤヤはこちらに気付いているのかいないのか、普段と変わらぬ足取りで少し上り勾配になっている森の小道を歩いている。その小道が少しばかりカーブを描いている先にシャヤヤが姿を消していったのを確認した俺達は、急ぎ足で揃ってそのカーブの手前まで移動する。首だけを出してカーブの奥を覗き込むと、小刻みに曲がりくねっている小道にシャヤヤの姿は見えない。どうやらその少し先を歩いているようだ。
「しかしこの道…こいつは…。」
「うんうん、やっぱりそうだね。シャヤヤさん大聖堂に向かっているんだよ。」
この曲がりくねった小道は一本道となっており、その先には先程見た石塔の十二神大聖堂がある。十二神大聖堂といえば、言わずと知れたエターバルバンド、略してエタバンの聖地だ。お互いを想い合う二人が久遠の誓いを立てる場所として、度々冒険者の間でも話題に上る場所だ。
「じゃあなにか?あいつまさか…エタバ…。」
「エタバンでもされるのですか?二人揃ってこんな所にいらっしゃるとは。」
俺の言葉を遮ってセセノとは別の声が割り込んできた事に驚いて前方を見ると、少し先を歩いているものとばかり思っていたシャヤヤがすぐ近くまで接近してきている。完全にこちらに気付いていた様子で、腕組みをして仁王立ちになった小さな体に相変わらずの無表情を搭載している。
「えっ、いやその、お、俺達もちょっと大聖堂まで散歩してみようかなあとかそういう事を考えてだな…なあセセノ?」
セセノが尾行してみようと言ったからだと危うく正直に言いかけて慌ててその言葉を飲み込むと、とりあえず口から出まかせでそんな事を言ってみた。とりあえず話の道筋だけつけておけば、自称ラカくんを翻弄する戦略策定の巴術士がなんとかしてくれるに違いないと思いつつその小さな巴術士をちらりと見ると、どうしたことかセセノは驚いたような表情でぽかんと口を開けながら俺のことを見上げている。
「あ、あのさ…ラカくん。」
「…なんだよ。」
やおらうつむき加減に両の手で頬を覆うと、戦略策定の達人は俺の話の道筋に続けてこう言い放った。
「そういう話の持って行き方は…べ、別にボク達まだエタバンの準備を始めていたわけでもないし…。」
「お前はアホか!全部バレバレじゃねーか!」
「つまりお二人は、大聖堂に向かう私が気になって尾行してきたというわけですね。別に隠すことでもないので正直に言いますが、私はまだエタバンする予定はありません。それよりも。」
いまいち話が噛み合わない俺達を見て僅かにその無表情が緩んだように見えたシャヤヤは、俺達のすぐ近くまで歩み寄ってきた。その背中には、いつの間に入手したのか初めて見る呪具が背負われている。柄の部分は少し機械的な無機質を思わせる意匠となっており、宝珠にあたる部分は流星を思わせるような不思議な形状になっており、金属なのか、それとも岩石なのかよく分からない不思議な光沢を放っている。
「それよりも、お二人こそいつ本当にエタバンされるのですか?ようやく恋人宣言を出されたのだから今か今かと招待状を待ち続けているのですが一向にこちらに届かないので、よもやお二人だけで初夜を過ごされたのかと…。」
「どうしてシャヤヤはいつもそっち方向に思考が向くんだ…。」
「お二人が夜な夜なあんなことやこんなことやあまつさえそんなことまで…これは興奮を禁じ得ませんね。」
どう見ても興奮を禁じ得ない表情には見えない黒魔道士は淡々と己の欲望を曝け出すと、改めて俺達に向き直った。
「それで、どうするのですか?」
「え、どうするって…何がだ?」
「ですので、エタバンです。お二人はエタバンするつもりはおありですか?」
シャヤヤに改めてそう言われて、俺とセセノは思わず顔を見合わせた。確かに少し前に知り合いを集めて恋人宣言を出してはみたものの、それ以降のセセノとの付き合いはそれまでと大して変わっていない。相も変わらず冒険に出かけてはセセノにからかわれ、グリダニアに戻ってはセセノに夜這いをかけられる始末だ。
「ま、まあ…俺としてはいずれは…とは考えているが。」
「ならば今この場でもう準備を始めてはいかがですか?」
「今かよ!」
シャヤヤの言葉に反論したものの、確かに彼女が言うことには一理ある。いずれやるのも今やるのも結局は同じことで、先延ばしにすればするほど俺とセセノが一緒にいられる時間は短くなっていく。もっとも、今現在もセセノに常にへばり付かれているのではあるが。俺がセセノの方を見ると、彼女はそれに応じるように俺を見上げてくる。その若葉色の瞳は若葉のような柔らかい視線を俺に投げかけてくる。それはあたかも、俺に全てを委ねるようなそんな彼女の安心感を伝えてきているようだった。以心伝心という言葉を聞いたことがあるが、きっと今のような心持ちがそれなのだろう。
「なあセセノ、その…行くか?…あ、いや…行こうか。」
「…うん。」
「それでは私はこれでグリダニアに戻るとします。お二人からの招待状、楽しみにしています。」
俺とセセノが手を繋ぐのを見てやれやれと言わんばかりに肩をすくめたシャヤヤがそう言いながらグリダニアに向かう道を下り始めた。その姿を見送ってから俺とセセノはお互いに顔を見合わせ、そして遠くに聳える石塔を目指して歩き始めた。
大聖堂を訪れた俺達を出迎えてくれたのは、介添人のヒューランの女性だった。手慣れた様子で俺達に必要な手続きなどを教えてくれている。俺は俺とセセノがどう見ても親子にしか見えないことを多少引け目に感じながら彼女の話を聞いているのだが、相手はそんなことは一切お構いなしに説明を続けている。因みに言えば、セセノも全く気にしてはいない様子だ。
「そういうわけですので、まずはエターナルリングのベースとなる指輪を用意して頂きます。ご自分で用意されてもどなたかに製作して頂いても構いません。」
「指輪か…俺はそういうの作るのは無理だな。」
独り言をいうようにぽつりと漏らすと、セセノが先程してきたように下から俺のトラウザーを引っ張ってきた。なんでも、アウラのぼんやり探偵マリがあれこれと製作もやっていると聞いたことがあるらしい。
「指輪が用意できたらまたここへいらしてください。次にすべき事をお話致します。」
介添人の言葉を聞き届けると、早速グリダニアに戻って彼女に連絡をつけるため俺とセセノはテレポの魔法を詠唱し始めた。
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俺とセセノは冒険装備もそのままにエーテライトプラザの脇にあるベンチにセセノと二人で座ってマリがやってくるのを待っていた。思えばこのエーテライトプラザでも色んな事があったものだ。セセノと出会ってこのグリダニアにやってきてからというもの、殆どこの森の中で冒険者として活動してきた。俺がそんな感慨に浸っているのをよそに、セセノはと言えば懐から飴玉を取り出して口の中に放り込み、ほっぺたをもごもごと動かしている。これから人を呼びつけて製作をお願いしようというのに呑気なものだ。
そんな時に不意に背後から一瞬の鋭い殺気を感じて振り向くと、刀らしきものを振り上げて飛び掛かってくる影が見えた。俺は反射的に飛び退こうとしたが、直ぐ側にセセノがいることを思い出してその場で振り返って身構えた。背中のホーリーシールドを装着しているヒマはない。白い甲冑の篭手を装備した腕を前方に掲げて迫り来る刀身をその篭手で受け止める。しかし妙に剣圧が軽いうえに、鳴り響いた音がいやに乾いている。
「峰打ちじゃ、安心せい。」
前にクガネに行った時にちょっと立ち寄った劇場で役者が言っていた台詞と似たような言葉を発するその人物をよくよく見てみると、鞘に収めたままの刀を構えているのは待ち人であるマリ・オダその人だった。
「なにやってんだいきなり!街中で襲撃かと思って焦ったじゃねーか!」
「失敬したな。侍の技の修練に明け暮れていたものでな。だいぶ物にできてきたので少々試させてもらった。それで、製作してもらいたいものというのはなんだ?」
人を木人のように扱うとは失敬を通り越して無礼千万だ。挨拶代わりにいきなり斬りかかってくるとは油断も隙もあったものではない。かなり肝を冷やしながらもエターナルリングのベースとなる指輪を2つ用意してほしい旨をマリに伝えると、なるほどと少し安堵したような表情を俺達に見せた。以前のクガネに向かう船上で三人で過ごした時の会話が思い出される。製作道具を持ち出してその場で指輪の製作を始めた彼女は脇目もふらず言葉も発さず手元に集中している。己の思い出を胸の内に仕舞い込みながら時間を大切にした方がいいと俺達に忠告をしてくれた彼女は、今の俺とセセノを見てどんな気持ちなのだろうか。
作業を終えたらしい彼女は、手元を見たまま無言で二つの指輪を差し出してきた。俺はその片方をセセノに手渡し、もう片方を自分の掌に乗せてそれを見つめた。銀をベースにした、清楚な雰囲気が漂う指輪だ。
「キレイな指輪だね。マリさん、どうもありがとう。お代は?」
マリの手は脇に置いてある製作道具を収めている鞄を器用に漁っている。流れるようなその手のこなしはまさしく一流の職人のそれだ。鞄から取り出した何かをごそごそと用意しているマリにセセノが礼の言葉を投げかけると、彼女はうつむいたまま仕事を一つやり遂げた感たっぷりに返事を返してよこしてくる。
「お代?それには及ばない。君達が一緒になろうと言うのならばこれはむしろ餞別として差し上げよう。つまりだ…。」
唐突にこちらに顔を上げたマリの端正な顔立ちの中心にすらりと伸びる美しい鼻には、丸めたティッシュが二本無造作に押し込まれていて赤き鮮血を鉄砲堰の如く堰き止めている。そして妙に歓喜めいた声で俺達に声をかけてきた。
「エダバンに是非どぼ呼っでいだだいできびだぢの初夜どおぼい出どやらをだな、ぎがせでいだだきだいぼのだ。」
「お前もシャヤヤと同じかよ!だいたいなんでエタバンした時点で初夜の思い出があるんだよ!」
「ばあおぼい出話は冗談だどしでぼだ、きびだぢの門出はしっかりびどどけさせてぼらおう。」
「まったくどいつもこいつも…俺達を酒の肴にしたいだけなんじゃないのか…?」
ひとまず受け取った指輪を大事に懐にしまいこんだ俺とセセノは、マリに礼を言ってその場を辞してきた。
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再び茨の森を通り抜け、十二神大聖堂を目指す。今回もチョコボには乗らずにずっと二人で並んで歩いている。やがて見えてくる石造りの巨大な門をくぐり抜けると、前に対応してくれた介添人の女性が出迎えてくれた。次に俺達がすべきことは、各地にある十二神の秘石と呼ばれているものを巡り、そこで祈りを捧げて十二神の祝福をこの指輪に授かることだそうだ。
ひとまず十二神の秘石がある場所を地図に示してもらった俺達は、旅の準備のために一度グリダニアの宿に戻ってきた。いつも冒険に出かける時と何ら変わらないので、準備は手慣れたものだ。むしろ各地を歩いて回るだけだから、冒険者ギルドの依頼をこなす時よりは遥かに気が楽だ。俺もセセノも荷物をまとめて装備が整ったのを確認したら、二人で一緒に宿を出た。宿が併設されているカーラインカフェを出て、エーテライトプラザへと向かう。都市内エーテライト網を使って転移した先は、幻術士ギルドがある碩老樹瞑想窟だ。ここの入り口の真上に一つ目の秘石、地神ノフィカの秘石がある。そこでセセノと二人祈りを捧げようと近付こうとしたところ、見覚えのある面々に取り囲まれた。
百合趣味の軍学者リリアム、無表情の黒魔道士シャヤヤ、爆音の竜騎士ルートブラウ、そしてぼんやり探偵侍のマリ。
驚く俺達にリリアムがまずは儀式を行うよう促してきたので、俺はセセノと共に指輪を手にその場で秘石に祈りを捧げた。すると指輪が僅かに光を帯びたような気がした。それを確認した俺とセセノは改めて集まってきた仲間達に向き直った。
「お二人さん、ようやくこれから出発だね。まあ今さら心配はいらないと思うけど、道中仲良くね。」
「気をつけていってらっしゃいませ。帰ってきたらぜひお二人の愛の逃避行のお話をお聞かせ願います。」
「デ・ラカさん、セセノさん!お二人の旅のご無事を祈っておりますぞ!」
「旅慣れているとはいえ油断は禁物だ。互いに助け合い、無事に紀行を完遂してくれ。」
口々に旅の餞の言葉をかけてくれる仲間達に対して何か言わなければと一度は口を開いたものの、こんな場面にあまり遭遇したことがなくて何を言えばいいのか咄嗟に言葉が思いつかない。すると、普段こういう場面では滅多に口を開かないセセノがひょいと俺の前に進み出た。
「みんなわざわざ集まってくれてありがとう。これから十二神の祝福を得るためにエオルゼア中を回ってくるね。ちょっと時間がかかるかもしれないけど、きっと…ラカくんと一緒にやり遂げてくるからみんな待っててね。」
その物言いは普段はあまり見せないセセノの自信のようなものが溢れ出ていて、正直俺は内心で面食らっていた。こんなに堂々とした物言いをするセセノを俺は今まで殆ど見たことがないが、言い終わったあとちらりとこちらを見て微笑む彼女を見た時、俺はその自信の源がどこにあるのかがなんとなく見えたような気がした。
「よし、それじゃあ早速出発するか。とりあえずここの秘石はいいとして、黒衣森には残り二つの秘石がある。まずはそこから行こう。」
俺の提案にうなずいたセセノと共に集まった仲間達に手をふると、目の前にあるエーテライトを利用してグリダニアの青貉門の外に転移した。森の空気は相変わらず穏やかで、吹き抜ける風は木と土の匂いを運んでくる。俺の小さな相方はその空気を目一杯吸い込みながら大きく伸びをしている。ふうっと大きく息をついた彼女はそれから俺を見上げ、元気な笑みを顔一杯に広げて話しかけてくる。
「あのさ、ラカくん。」
「ん?なんだ?」
「せっかくだからまたチョコボ使わずに歩いていこうよ。初めてここに来た時みたいにさ。」
「ああ、それは構わないんだが…道中魔物に襲われやすくなるかもしれんぞ。」
「その時は…ラカくんがボクを守ってくれるんでしょ?」
言いながら俺を見上げてくるセセノの瞳には、安心感と共に悪戯っぽい心が見え隠れしている。初めて出会った時に真っ先に俺をからかいに来たときと同じ目ではあるが、しかし今の彼女はおそらくそれとはちょっと違う心境なのだろう。どちらにしても、その質問に対する俺の答えはもう決まりきっている。
「そうだな…だがそれはお互い様だ。俺だってセセノが支援してくれるからこそ頑張れるんだ。長い旅になりそうだけど…二人で一緒に頑張ろうな。」
「うん。」
俺はセセノの手を取って森の中を続く道を歩き始めた。彼女の手は小さくて柔らかくて、そして暖かかった。セセノと一緒に黒衣森にやってきた時の道を逆にたどりながら、俺達はベントブランチ方面に向かって歩き続けていた。
---あとがき---
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「ついにのせんと」をブログでまとめて読めるようにしています。よろしければこちらもご覧になってください。
http://twininnocent.blog.fc2.com/
というわけで、いよいよ二人はエタバンに向かって動き始めました。次回以降は秘石巡りのお話を書いていきたいと思います。
これで暫くはネタに困らないぞ…!w