
不思議な男でしたな。吉村ギル一郎は。
あれは2.1パッチも直前の頃……我々のFCが日野の道場を出て、会津公のお預かりとなり
ウルダハの市中見廻り班に任命された頃の事でした。
人員補充の名目で集められた食い詰め者の中でも一際みすぼらしく
そして腕自慢の荒くれ者達の中でも、抜きん出て強かった。
元はクルザス盛岡藩の脱藩藩士だったとのことですが、さてあの頃のウルダハにはエオルゼア中から食い詰め浪人がつめかけておりましたからなあ……
出鱈目を言ったところで確認の仕様もなし、またお互いに過去の詮索はすまいという空気でしたから、本当のことだったのかはわかりませんなあ……
え?クルザスで?確認を取られたのですか。
では彼は実際に……そうですか……家族を残して……
それで少し得心がいったような気が致します……。
王家転覆を目論むリムサ、グリダニアの不逞浪士どもが入り乱れ、陰謀渦巻く当時のウルダハ。
百戦錬磨の冒険者達も憔悴の色を濃くし、徐々に荒れていくナル回廊においても
ギル一郎は変わりませんでした。
つねに粗末な格好をしていた。
いつも接ぎの当たったボロボロの薄っぺらいコットンシャツ一枚こっきりで、ウィングレットの柄などは紐でもって修繕の跡がありました。
にも関わらず、あの男にはなにか、犯し難い気品のようなものがありましたな。
クルザスの藩校で教師を……?
ああ、なるほど。そう言われますと納得がいきますなあ。
竜騎士達の模範となるべく教鞭をとっていたのならば、あの佇まいにも納得がいくというものです。
さぞや尊敬され、好かれていただろうって?
とんでもない。
彼は隊内の鼻つまみ者でした。
何故って、とにかく金に汚かった。
自分が主催したPTでも決してテレポを出そうとはしなかったし
討ち入りの最中によくよく見てみると右側が全て練成装備、なんて事もあった。
あまりに見苦しいので副長が新式禁断でも買えと与えたギルも全て貯金に回してしまい
しれっとした顔でエーテライトリングを嵌めてバハムートにやってくる。
あれには鬼の副長も苦笑いをされておりましたな。
こんな事もありました。
FC法度に違反した隊士が処分されることになりました。
その、介錯の役目が私と、ギル一郎に回ってきた。
嫌な御役目です。
ですが、上役からの命令とあれば果たさぬわけには行きませぬ。
どうにかこうにか御役目をやり遂げ、局長と副長の前にご報告に上がりました。
我々の前に一分ギル25枚を包んだ25000ギルの切り餅が一つづつ、置かれました。
この金で酒でも飲んで血の穢れを落とせということでしょう。
ですが、身内を斬って金をもらうのも心苦しい。
わたくしは固辞いたしました。
それが潔い冒険者の道だと思っておりましたから。
ところがギル一郎はそうは思わなかったのでしょう。
「ではわしが二人分頂きます」というが早いか、素早く手を伸ばして切り餅2つを引っ掴むと
袂に入れてしまいました。
「いや、お主それはいくらなんでも……」
私が彼を咎めようとすると、ギル一郎はとったものを奪われまいと袂を握りながら叫びました。
「ギルこさ名前書いてね!!わっしにはギルが必要なんでがんす!ハウジングのために、ギルが必要なんでがんす!!」
後になってパッチノートを見た時、ギル一郎くんが何故あそこまで必死になったのか
やっと理解できたような気がしました。
彼には家が必要だった……そしてその高価な土地を贖うために、あそこまで必死になって金策する必要があったんでしょうなあ……
ギル一郎くんは、パッチ2.1を待たずにカルテノーの戦で討ち死にしたとも
第七霊災を生き延びてウルダハにあったクルザスの藩邸に落ち延び、そこで腹を切ったとも伝え聞いております。
彼が得ようとした家のサイズがどれくらいで……
それには総額何億ギル必要だったのか……
今となっては知る由もありませんなあ……。
ギル義士伝 完