これは、遠くを見るときはつい目を細めてしまう。そんなあるララフェルの、ただの冒険記録です。
1 念願のマイチョコボ
ある秋のことです。
そこは、たくさんの紅葉樹に彩られたグリダニア新市街のエーテライト広場。
もう夜も遅い時間だったので、騒がしい子供達や、忙しく走り回る大人達の姿も無く、広場は落ち着いた雰囲気を醸し出していました。
そんな静かなエーテライト広場に颯爽と現れた、一人のヒューラン族の男性冒険者と、彼に引かれて歩く一羽の大柄なチョコボ。
そのチョコボは、使い込まれてはいるもののよく磨かれたピカピカの騎乗具を身に付け、そしてマスターとお揃いである白銀の鎧で武装した、とても精悍な、美しいチョコボでした。
「こんばんは^ ^ 」
そんなお似合いの一人と一羽の元へ、あるアウラ族の女性冒険者がゆっくりと近づきながら、挨拶をしました。
「……え?ああ、こんばんは、お嬢さん。どうかしました?」
ふいに話しかけられ、男性冒険者は驚きながらも返事をしました。すると、女性冒険者は彼のチョコボに近寄って、まじまじと興味深そうに観察しながら、
「わたし、マイチョコボ欲しいんですけど、どうすれば持てるの?」
「……はぁ?」
彼は一流の冒険者でした。だから、そんな風にいきなり砕けた質問をされた時、一瞬緊張したものの、
「お〜、かっこいいね君。どこから来たのかな〜?^ ^」
「クェ〜?」
しかし、自分のマイチョコボを褒められて悪い気がしなかった男性冒険者は、ふいに優しい表情になり、
「ああ、そうか。君もマイチョコボを所有したいんだね?」
男性冒険者の問いに、チョコボをうっとりと見つめながらうんうんと頷き返す、女性冒険者。
「なら、まずはどこかのグランド・カンパニーに所属する事だね。そうすれば国から正式にチョコボ騎乗免許が発行されるんだ。だから君も、すぐにマイチョコボに乗れるようになるよ」
「あ〜、なるほど」
気を良くした男性冒険者は、突然現れた謎の新米冒険者の不躾な問いに対し、きちんと答えてあげました。
「カンパニーね。そっか、ありがと!^ ^」
「君と、君のマイチョコボの未来に、良い冒険があらんことを」
「クェ〜!」
お互いにお礼を言って男性冒険者と別れると、教わった通りにグリダニアのグランド・カンパニー詰所に向けて歩き出す、ある女性冒険者。
「じゃあ作るかー。カンパニー」
彼女はこの後、さっきの男性冒険者が教えてくれた通り、フリーカンパニー設立を申請しようとしました。ですが、
「えーー!ダメなの?さっきの人、そんな事言ってなかったし……」
なんと、フリーカンパニー設立には四名分の冒険者直筆による結成署名が必要だと言われ、早々に門前払いされてしまったのです。
「ちぇ〜、あの人すぐって言ってたのに。チョコボ免許って取るの大変なんだね。あーあ、どうしよっかなー……」
そう、まだ冒険者になったばかりの新米に、一緒にフリーカンパニーを作ってくれるフレンドなんて、いるわけがなかったのです。
「んー、まー、その辺にいる人でいっか!」
そして彼女はグリダニア市街の門を抜け、鬱蒼と茂った夜の黒衣の森に出ると、
「ほいっ、ほいほ〜いっ!^ ^」
おそらく森の中にいるであろう、話したことも無い、姿すら見えない冒険者達に、挨拶すら書いて無い白紙のカンパニー署名用紙を、魔法で適当に飛ばしまくりました。
「こんなとこかな。ふぁ〜。さ、今日は寝よ寝よ^^」
欠伸をしながらグリダニア市街に戻る、ある女性冒険者。
「わたしのマイチョコボ〜♪何色にしよっかな〜^ ^ ♪」
そして、グリダニア連邦から、彼女の申請したフリーカンパニー「ワークアウト」の設立が正式に認められたのは、それから一週間後の事でした。
ですが……、
「あー!あの人にだまされたー!^ ^;」
どういう訳だか、彼女は結局、マイチョコボに乗ることは出来ませんでした。
そして時は流れて……。
2 砂都の再会
砂だらけの荒野にも、冬は訪れます。
ここ、ウルダハでは冬の一大イベント「星芒祭」の当日を明日に控えていたので、その準備が街のあちこちで進められていました。
中でもとりわけ「ルビーロード」と呼ばれる、様々な商店が立ち並ぶマーケット通りは、星を象った様々な装飾が施され、とっても綺麗です。
「ねぇランさん、もう買うものは決まった?w」
隣を歩くエレゼン族の冒険者、ユーリさんが笑顔で訪ねてきました。
「う〜ん、どれもこれもお高いですねぇ……」
私は、フレンドのモモさんに作ってもらった星芒祭用の服を軽やかに揺らして、答えます。
さて、なぜ私とユーリさんがここにいるかというと。
……実は、先日のギムリトの戦いで多大な戦果を挙げた我がFC「ワークアウト」には、グリダニア連邦から多額の報償金が支払われていたのです。
代表者であるかじさんは、そのお金をみんなに均等に分けてくれたので、私もそのおこぼれに預かったわけなんですが、
「……でも、急に100万ギルなんて大金をもらっても、どうすればいいのか……」
そう、普段あまりお金を使わない私にショッピングの楽しさを伝えたい、と、わざわざユーリさんが付き添いで来てくれたのです。
ついでに、今日は私のフレンドがウルダハでお店を開く日だったので、その開店祝いで遊びに行きましょう、という事にもなっていました。
「そんなの、自分へのご褒美でいいんですよ!なんか好きなのをフィーリングで買っちゃいましょう!かじさんなんて速攻使い切ったとか言ってましたしw 」
一体何に使ったのやら、なんて楽しそうに話すユーリさんの横で、私は眉をキッと上げながら、
「うーむ。お金持ちのかじさんなら100万ギルなんてただのお小遣い程度なんでしょうけど、私はこんな大金、生まれて初めて持ったんです。だから、じっくり考えないといけませんね!」
やっぱり、ここは堅実にいきましょう。絶対無駄遣いしないでおきましょう!と、そんな風に心に誓った、そんな時でした。
「あれ?ランさん?ユーリさん?」
ふと、後ろから、懐かしい声が聞こえた気がしたので振り返ってみると、
「お久しぶり〜!^ ^ 」
そこには、懐かしい姿が。
「え、ルゼアさん!?ルゼアさんじゃないですか!」
私がビックリして大声でその人の名を呼ぶと、
「おおおおおおお!ほんとだ!ルゼアさんだ〜; ;」
ユーリさんも驚いて、思わず叫んでしまったようです。
ルゼアさんは、この世界で私に初めて出来た、フレンドの方です。
アウラ族の女性冒険者なんですが、彼女は、なんと我がフリーカンパニー「ワークアウト」の創設者でもあります。
けれども、彼女は自由な旅を愛し、何ヶ月も連絡を寄越さず冒険旅行に出かけたりと、やりたい放題に生きている方です。
だからある時、FCの最高経営責任者の席を優秀なかじさんに譲って、本格的に気ままな旅を続けているという……彼女はそんな、私の憧れの「自由騎士」様なのです。
「みんな元気そうじゃない^ ^ 」
「はいw」
「ルゼアさんこそ変わってないですね!」
ユーリさんと私が返事をしたら、なぜかルゼアさんは私に視線を向けると、
「あー、その言葉、ランさんに言われるとなんか腹立つ!^ ^; 」
彼女は急にブチ切れて、私の頭を上からぎゅうぎゅう押し始めました。
「いたたた!やめてください!」
ああ、せっかくモモさんが作ってくれた星芒祭用のスペシャルな帽子がつぶれちゃいます!
「なんであんたらララフェルは、死ぬまで姿が変わらないとか、どーなってんの!?^ ^;」
そんな風に街なかで騒いでいたら、私達の大声に反応して、道ゆく大勢の人たちが一斉にこっちを見ました。
「ル、ルゼアさん、場所を変えましょう!ほら、ランさんから離れて!」
その隙をついてユーリさんが私をルゼアさんから引き離すと、
「ちょうどここから近くのゴブレットビュートに、いいお店が開店したんですよ!今からランさんと一緒に行くところだったんですが、ルゼアさんもどうですか?w」
「お?行きましょう^ ^」
さっきまでの鬼の形相は一瞬で消え去り、あっさりと承諾。
すぐに歩き始めた二人を、私はぐちゃぐちゃになった自慢の金髪を両手でほぐしながら走って追いつくと、ああ、ルゼアさんが帰ってきたんだなぁと、改めて実感が湧いてきたのです。
そして私達三人は、会えなかった時間を埋めるように他愛もないおしゃべりをしながら、今日オープンしたばかりという、あるお店に向かったのです。
つづく