Personnage

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Juliette Blancheneige

Le Bouclier humain

Alexander (Gaia)

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『Sweetest Coma Again』6(前)(『Mon étoile』第二部四章)

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6-1

 夢幻宮、白花殿と名付けられた領域。
 後継者たるソフィア・ソムヌスの住まう領域だ。
 その飾り気のない、されど清潔な廊下を、『徳義(モラリティ)』エレフテリオス・ラエルは歩く。
 戦闘時にまとっていたサーコート姿ではない。長いマントをなびかせた、『純潔派』の正式な礼服だ。
 突き当りの大きな扉。その先がソフィアの寝室だ。ちょうどそこから、治療を受け持った司祭が退出するところだった。
 年若い女性司祭は、エレフテリオスを見て恭しく礼をした。エレフテリオスも『徳義』として、非の打ちどころのない礼を返す。
「御苦労。姫様のご容体は」
「はい。――“お体は”異常ありません」
 その意味するところを正確に読みとり、エレフテリオスは静かに頷いた。
「承知した。『恪勤(ディリジェンス)』への報告は私のほうからしておく」
「ありがとうございます」
「お前たちも下がっていい。処置が終わったら呼ぶ」
「は」
 扉の両側に控えていた護衛の騎士――騎士とは言うが、彼らも白魔道士である――たちが礼をする。治療を担当した司祭も、警護の騎士たちも、皆『恪勤』の配下の者だ。それも、事情をわきまえている高位の者だ。
 彼らを下がらせ、扉を開く。
「殿下。臣『徳義』、罷(まか)り越しました」
 よく通る声で宣言しながら、幾重にも紗が垂れ下がる部屋を奥へと歩む。
 最奥に、豪奢なベッドがある。天蓋と、周囲を囲むヴェールを備えた、大柄なルガディン男性でも三人は並んで寝られるほど広い。
 扉側のヴェールだけ開かれていて、ベッドの上で膝を抱えて座るソフィアが見えた。
「姫」
 エレフテリオスの呼び掛けにソフィアは顔を上げた。目が真っ赤で、今も目の端に涙が溜まっている。
「レフ……」
 言いかけてから、自分が薄手の寝間着姿でいることに気が付き、頬を染めて背を向けた。
「……レフも、私を笑う?」
 背を向けたまま、鼻声で言う。かなり落ち込んでいる。
 無理もない。自信満々に出掛けて行って、集団としても個人としても敗北したのだ。結果、軽挙妄動の勇み足という評価を下されている。
 下されている、とは言うが、おそらく誰も直接的に諌言はしていない。持ち前の洞察力で周囲の気持ちを察したのだ。そして何より、ソフィア自身が自分にその評価を与えている。
 エレフテリオスは淀みなく返答した。
「いいえ。貴女が彼女たちの危険性に気付いていなければ、我々は後手に回るところでした」
 膝に埋まっていた顔が上がる。素直な反応に、思わず口が緩む。けれど、釘は刺しておかねばならない。
「――ただ、私を置いていったことには不満があります」
 指摘の声に、びくりと肩が震えた。
「それは……その、ごめん……なさい」
 たぶんまた涙が出たのだろう、揺れる声でソフィアが謝る。
 無言で、エレフテリオスはベッドを囲むヴェールの内側へ入った。
「……!」
 ソフィアが再度びくっと震えた。それは嫌悪感からの警戒ではなく、もっと怒られるのではないか、という怯えだ。
 ヴェールを閉めると同時に結界を張る。ベッドを包み込んだそれは外部からの侵入を封じると同時に、内外を物理的な“膜”で遮断した。
「もう、怒らないよ」
 優しい声で、エレフテリオスは告げる。
 この中のことは、誰にも知られない。
 外から中を窺うことも、その逆もできない。
 “浄化”――すなわち精神操作の術――は繊細であるため、外部情報を遮断しなければ危険だからだ。
 ただし、ソフィアには内容を違え伝えてある。
 千五百年ぶりに眠りから覚めた副作用として、ソフィアは記憶障害を起こし幼少期の記憶を失っており、その回復の為に施術が必要である、と。
 それは嘘だ。
 彼女は、千五百年ぶりに目覚めてなどいない。
 だがどうあれ、ヴェールの内側のことは誰にも知られることはない。それを、ソフィアも認識している。
 後ろから見ても頬が上気しているのが分かる。自身もベッドに乗り、エレフテリオスはソフィアを抱きしめた。耳元で囁く。
「誰も君を笑ってなんかいない」
「……嘘」
 心に刺さったトゲは、抜けても幻肢痛のように苛む。エレフテリオスの腕を掴んだ手が震えている。
「妬んでいるものはいる。君の才能と立場を、自分が手に入れられないからだ」
「……」
「そういう者たちの嘲弄には、耳を貸さないで」
 優しく言いながら、腕の力を少し強くする。
「……でも」
 ソフィアがためらいがちに体重を預ける。しっかりと受け止める。
「君はできてる。ちゃんとやれてる。君の努力の道を、僕はずっと見てきた」
「レフ……」
 もう一度強く抱きしめてから、告げる。
「自信を持って、ソフィア。君には君しかできないことがある。戦いなど、些末なことだ」
「……うん」
「だから、もう咎人を作ろうとか、前線に出ようとかしないでいい。そういうのは、僕らの仕事だ」
「………………わかった」
 小さく頷くソフィア。
「いい子だ」
 その顔を、こちらへ向かせる。涙を、キスで拭った。
「ぁ……っ」
 潤んだ瞳のまま、ソフィアがエレフテリオスを見上げる。ごく自然に、唇にもキスをした。唇を離す。体をエレフテリオスのほうへ向けたソフィアが、首に腕を回す。
 ソフィアのほうから、おずおずとぎこちないキスをした。
 エレフテリオスが、抱き寄せてもっと深いキスをする。
 何度もくちづけを交わしながら、エレフテリオスはソフィアをゆっくりと押し倒した。
「先に、“施術”を済ませるよ」
「……うん」
 緊張しながら目を閉じたソフィアの額に、自分の額を付ける。

 彼女は、いわゆる洗脳をされている。
 教団の悲願である現世侵攻を行う際に必要となる『器』。その為に記憶を封じられ、認識を弄られている、『現世人』だ。
 ただしテンパードではない。
 ソムヌスはその特殊性により、テンパードを戦力にはできない。できない理由がある。
 ゆえに、彼女はもっと細やかな技術によって洗脳されている。
 定期的に上書きし、破綻を生まないよう“調整”する。
 それが、エレフテリオスが任されている“浄化”の意味だ。
 ソフィアは知らない。本当の記憶、七歳程度までの出生の記憶、それらが己の中に存在していることを。
 ソフィアは知らない。教団の目論見が完了したとき、彼女の個性は消し飛ばされてしまうことを。
 そして、ソフィアも、教団も知らない。
 エレフテリオスが、“浄化”が正常に行われていると欺瞞しながら、洗脳を解くための準備を行っていることを。
 『四善』でもっとも優れた、彼の高度なエーテル操作技術。精神や記憶に関する、卓越した技と術。そのすべてを賭けて、エレフテリオスは彼女を守ろうとしている。
 勝機はある。
 絶望的な状態で乾坤一擲の大勝負を仕掛けることも想定していたが、彼女たちという不確定要素が登場した今、それは覆りつつある。
 切り札もある。それこそ不確定極まりないが、エレフテリオスが机上に伏せたカードが一枚、場に登場しているのだ。
 だが、だからこそ、より慎重に行動しなければならない。
 注意深く見極め、目標を果たそう。

 ソフィアを、この狂った世界から解放する。

 それが、エレフテリオス・ラエルの真の望みだ。

6-2

 アステラ・ユーフェミアは、地味な子供だった。
 存在感が希薄と言われたことがいっぱいある。

「あら、いたの?」

 実の母親にさえそう言われたことがある。
 やがて、その存在感のなさは、容姿や態度や喋り方によって強化された。
 両親が不和になり、自分の話を聞いてもらえなかったことも大きい。
 地味な子供は積極的な無視を味わい、傷を深めていく。
 人に見てもらえない。
 人に聞いてもらえない。
 その苦痛は、彼女にとって何度も遭遇する“物語の結末”だった。
 努力して、努力して、結果を出す。
 今度こそ見てもらえると、振り向いてもらえると信じて。
 でも、現実は残酷で、アステラは一番を取れなかった。
 取れて三番。出来が悪ければ十番以下だ。
 そして一番を取った者が称賛され、自分は取り残される。

 あーあ。またこのエンディングか。

 それでも、彼女は努力を続けた。悔しさと妬ましさが原動力だった。
 やがて地方の推薦枠を取ったアステラは、アイ・ハヌム学園へと入学する。
 国家公認白魔道士。誰もが認めるその地位にたどり着けば、自分のコンプレックスも癒されるのではないかと思ったのだ。
 しかし。
 最も国家公認白魔道士に近い、つまりは『継承の儀』を通過する見込みのある者たちが集められた特進クラス、通称『翼組』。
 そこに所属することになったアステラは、愕然とした。
 上には上がいる。
 アステラの成績を軽く凌駕する化け物たちが、そこには集っていたのだ。
 彼らは一種の異常者だ。アステラはそう決めつけた。
 だって、そうじゃなかったら。
 必死になって勉強している自分が、笑う余裕など微塵もないのに。
 自分より良い成績の彼らは、皆快活で明るくて社交的なのだ。
 これを異常と言わずに何といおう。
 それでも、彼女は努力を続けた。寝る間も惜しんで勉強し、努力して努力して努力した。
 やがて、『継承の儀』を迎える最高学年になる頃には、彼女は成績上位者の常連となっていた。
 ただし、三位以上にはなったことがなかった。
 アステラは生まれた年の不幸を本気で呪った。
 どうして、彼女たちと同じ年代に生まれてしまったのだろう。
 リリ・ミュトラ。
 セレーネ・デュカキス。
 二人がいる限り、自分が一位を取ることは無い。
 しかも、自分は教科によってばらつきがあり、苦手な科目ではぎりぎり十位以内に入るかどうかなのに。
 彼女たちは、ほぼ全教科で一位と二位を独占していた。
 悔しい。妬ましい。
 悔しい。妬ましい。
 楽しそうに笑って二人で仲良くして、褒められて人に教えて励まして尊敬されて!
 無邪気に勝利して! 軽々と勝利して! 当然のように勝利する!!!!

 アステラがひそかに憧れていた男子生徒が、リリに告白した。
 でも、リリはそれを拒んだ。
 それだけで、自分が否定された気がした。
 許せない。許せない。許せない許せない許せない許せない許せない!!!

 あの日。
 アイ・ハヌムがマハの妖異たちに襲撃された日。
 彼女たちはそれきり行方不明になった。
 そこから学園は変容した。国家公認白魔道士の認定基準に、『継承の儀』通過だけではなく、『純潔派』への入信を義務付けたのだ。
 学習の内容も、純粋な魔法技術の追求よりも、純潔派の教義に重きを置くようになった。
 すでに最高学年だったアステラは、改定された授業はほとんど受けず、問題なく『継承の儀』を通過し、ついでのように『純潔派』を自らの信仰として受け入れた。
 待ち望んだ称賛。
 けれど、もうそのときには、アステラは何ももっていなかった。
 見返すべき相手も失い、魔大戦で想い人も失い――積み上げた憎悪の行き先も恋慕の終着点も見つけられずに、アステラは今までの自己節制の反動のように快楽を追求し始めた。


§

 自分の下で、男がひときわ激しく喘いで、それから弛緩した。
「……まさか、自分が……『公平(インパシアリティ)』様と……こんなことを……」
 荒い息をつきながら、全裸の男がアステラを見上げてくる。
 精も根も尽き果てたという風情の男と淫らに絡まりながら、同じく全裸のアステラは男に顔を近付けた。
「気持ちよかったよお……偉いね、褒めてあげる」
 左目が白く鋭い光を発した。

 その瞬間、男の体は虚空にあった。
「え?」
 遥か眼下に、雲海より頂上を覗かせる峻厳な山々が見える。
 一糸まとわぬ姿で、男は落下を始める。
「うわああああああああ!!!!」
 もはや男には絶叫するしかできない。

 ベッドの上でアステラは男を見下ろす。
 男はあられもない悲鳴を上げ、やがて全身がぐしゃぐしゃに潰れた。ベッドの上から微動だにしていないのに、まるで高空から墜落死したような死に方だった。
「あはぁ……」
 それを、うっとりとした表情でアステラは見つめた。
 肉欲はほんの一瞬だけ、アステラを癒してくれる。
 けれど、自分は死なないと思っている者が突然死を突き付けられて無様を晒して死んでいくのは、その何倍もの快楽をアステラにもたらした。
「アステラ様」
 開きっぱなしの部屋の入口に、男が一人現れた。
 『公平』付きの副官、マノスだ。短く刈り込んだ髪、しっかりとした顎。堀の深い顔と、がっしりとした体格。現世人でいうハイランダーに近い容姿。白魔道士というより、武骨な軍人という形容が相応しい男だ。
「民は、この真世界の貴重な礎です。無意味な殺戮はおやめ下さいと」
「無意味じゃないし!」
 アステラは苛立たしげに言い放つと、マノスの前に立った。磨き上げられた美しく蠱惑的な裸体を、惜しげもなく晒す。普通の男なら狼狽える場面だが、マノスは一切動じなかった。見上げてくるアステラの顔を、厳しい目で見返してくる。
 奇妙な男だ。
 就任早々にアステラから、自分の領域の中では『公平』と呼ぶことを禁ずる、と言っても全く動じなかった。
 アステラが民をここへ引きずり込んで玩具にするのを、『民は貴重な資源』という理由で諫言し、アステラの淫行自体を咎めたことは全くない。
「これから来る連中の歓迎の為に、こっちのテンション上げてんのよ。『聖隷眼(せいれいがん)』の精度もあげなきゃだし。つまり、無駄じゃないってこと!」
 ただの言い訳だ。実際がところ、気分で殺したようなものだ。けれど、マノスの冷厳とした視線に見られていると、反発したくなってしまう。
「……どうせ、死んだって言っても“底”に還るだけだし」
「『真世界』にあるものが苦しんで死ぬことは、教義との矛盾を生じます。魂の劣化を招くかもしれず……」
「どうだっていいわよそんなこと!」
 アステラは激昂した。この男が自分の副官だとか、そんなことももうどうでもいい。イライラするなら潰すべきだ。
 彼女が魔眼を輝かせようとしたとき。
『ヘルヴィムゲートが起動。生体登録ありません』
 機械的な音声が告げた。
「……!」
 来た。
 もう、今までの口論など取るに足らぬことだった。
「『微睡の道(ウルウァ)』を起動。アタシが行くまで時間を稼いで」
『受諾。『微睡の道』を起動します』
「マノス! 『戦隊(ペルタス)』を率いて『喜光門』周辺に潜伏!」
「は!」
 打てば響くマノスの返答に、アステラは満足を覚える。
 マノスらは保険だ。万が一アステラの『聖隷眼』が破られたとき、侵入者らを即殺するための伏せ札。無論、アステラは自分の技に絶対の自信を持っている。だが、それでも。
 “現実”の意地の悪さは、アステラ自身が嫌というほど知っている。
「ためらうな。アタシごとやれ」
「――了解」
 鋼の自制力で命令を受諾したマノスへ、アステラは一瞬だけ目を細めて笑みを向けた。それでいい。
 この世界に囚われるか、殺されるか。
 もう、あんたに残された選択肢はそれだけなんだよ、リリ。
 手早く服を着たアステラは、出立直前に姿見で自分を見た。
 血の滲むような研鑽で築き上げ、作り上げた美女が、ぞっとするような笑みを貼り付けてこちらを見返していた。

『Sweetest Coma Again』6(後)へ続く
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