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Juliette Blancheneige

Le Bouclier humain

Alexander [Gaia]

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『黒と蒼』(後編二) (『Mon étoile』第二部四章)

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「意外だな」
 村の外れ、鋭い崖から山々を見渡せる草原で、レティシアは姉に言った。
「なにが?」
 立ち止まったレティシアから少し離れてから振り向き、ジュヌヴィエーヴが小首を傾げる。
「直接戦う気が無いのかと思ってたよ」
 ずっとダヴィドの後ろにいる姉は、いわば象徴的な役割を担っているのだと思っていた。村でそうであったように、『詩竜の巫女』はかしずかれるのが当然、と姉が思っているのだろうと決めつけていた。
 ふ、とジュヌヴィエーヴが溜息を吐いた。呆れた顔だ。
「貴方もあの蒼天騎士も、わたしが戦えないと思っているようで遺憾だわ。ダヴィドがわたしを護ろうとするのは、わたしを大事に想ってくれているから。愛ゆえよ」
 黒衣の魔女から愛などと言う単語が出てきたので、レティシアは目を丸くした。
 構わずジュヌヴィエーヴは語る。
「もしわたしが、正真正銘彼に護られるだけの存在でしかないのならば――自死を選ぶわ。そんな情けない存在に価値など皆無。この星の頂点へ駆け上ろうという天上種の長は、誰よりも強くあらねばならない」
 決然と言い放つジュヌヴィエーヴ。
 けれど。
 レティシアは、今の言葉で決意をした。
「『情けない存在に価値など無用』、か。姉さま――いや、詩竜の巫女ジュヌヴィエーヴ。あんたは同じことを、たぶん誰にでもいう。そして、自分を基準にして、劣るもの、無様と感じたものは容赦なく断罪するだろう」
「そうね。ええ、そうするつもりよ?」
「……決まりだ、ジュヌヴィエーヴ。お前はあたしの敵だ」
 切っ先を突き付けるレティシア。それを冷ややかに見つめ、ゆっくりと、噛んで含めるように黒衣の巫女は告げた。
「言葉遣いに気を付けなさいね、暗黒騎士レティシア。――“敵”とは、対等以上になり得る相手に対して使う言葉よ」
 瞳が赤く輝く。その身から、じわり、と黒いエーテルが滲み出てきた。強烈な、未だかつて感じたことのない圧力をレティシアは感じた。
 恐怖。怯え。郷愁。後悔。それらが己の裡に湧き出している。
 それを冷静に見据えて、レティシアは言った。
「戦いに“絶対”はない。憶測で油断する奴から死ぬ、ってウチの師匠が言ってたぜ」
 もはや笑みを浮かべず、ジュヌヴィエーヴが淡々と告げた。
「そうでしょうね。人、ならば」
 にやりと笑って、レティシアが切り返した。
「そうだとも。人、ゆえにさ」
 一瞬の沈黙。
 風がそよぐのを感じながら、気合の叫びをあげてレティシアが斬りかかる。



 五体の眷属とダヴィドが休みなくテオドールを攻める。
 その猛攻を的確に防ぎながら、範囲攻撃を駆使して全員にダメージを与えていく。
 だが。
「“歌”はジュヌヴィエーヴだけの技じゃねえのさ!」
 ダヴィドが吠えた。その衝撃はテオドールを吹き飛ばし、眷属たちには再生の効果を与えた。数体の倒れる寸前だった眷属たちが、見る間に回復していく。
「――!」
 厳密にはこれは“治療”ではなく“再生”で、その資源は眷属たち自身の生命力だ。結果的に眷属たちの寿命は削られているのだが、今はそれを惜しんでいる場合ではないとダヴィドは判断した。
「く……っ!」
 再度勢いを増した攻撃に、テオドールは体力を削られていく。自身への治癒魔法を行使し、減った魔力を剣技と技能で回復させるため、継戦能力は高い。しかし、それでも。防ぎきれぬ傷が貯まる。魔力の消費に、回復が徐々に追いつかなくなっていく。
「ハッ! 終わりか? 終わりかぁ!」
 煽りながらダヴィドがラッシュを仕掛ける。躱しきれず、盾で防ぎ続けるテオドールの体力がどんどん削られていく。
 このままでは……!
 必死に起死回生の策を考え続けるテオドール。
 ラッシュの後、テオドールを蹴りで吹き飛ばしたダヴィドが口中に破壊の光を収束させた、そのとき。
 空から飛来した矢が、ダヴィドと眷属たちに襲い掛かった。
「ああ!?」
 ダヴィドが見上げる。
 そこに、黒チョコボに乗った一団がいた。揃いの装束を着た者たちが、弓を構えている。
「あれは……!」
 テオドールには心当たりがあった。その心当たりを裏付けるように、村の方角から黒チョコボの羽音が一斉に聞こえてきた。武装した一団が、村人を護るように展開を開始していた。
「無事ね、テオドール」
 すぐ上から声がした。そして、一人の女性が――おそらく空中で黒チョコボから飛び降りたのだろう――テオドールの傍らに着地した。
「姉上!」
 ゆったりとウェーヴを描く長い髪をなびかせ、エレゼン女性としても長身の美女が微笑んだ。黒く染めた戦神鋼の重鎧。背には巨大な戦斧。
 テオドールの姉にして神殿騎士団コマンド、ジュリア・ダルシアクだ。
 彼女に従う一団は、神殿騎士ではあったが、通常のそれとは一線を画していた。
 まず、種族が違う。エレゼンだけではない――むしろエレゼンは少なく、エレゼン以外の“人”の範疇に入る種族は多少はあれどほぼ揃っていた。
 次に、装備が異なる。鋼の全身鎧を着込んだ者から、ゆったりとしたローブを纏う者まで。つまりは、様々な職業の者たちが揃っていた。
 これが、噂に聞く『鋼人戦隊』。
 イシュガルドに住まう非エレゼン種族の者にも、国を護りたいと思う者は存在する。出自を問わずそれら有志の者を採用し、冒険者の職業と戦術を取り入れて構築された特殊戦隊。
「ジュリア様!」
 鋼人戦隊の部隊員に護られたオデットがジュリアに手を振る、彼らによって、村人たちは安全な場所への移送が始まっている。
 オデットの手には、ジュリアが個人的に渡したリンクパールが光っていた。これで彼女がジュリアへと村の危機を伝えたのだった。
 手を上げオデットへ微笑みかけるジュリア。踏み出したダヴィドへと向ける顔へ向けるのも微笑のままだ。
「神殿騎士団か。ゾロゾロ雁首揃えやがって。まとめて消し炭にしてやるぁ!」
 咆哮を上げながら、ダヴィドの身体が二回りは膨れ上がった。姿も更なる異形化を果たしている。その咆哮は眷属たちをも異形化させていた。竜に近付いた眷属たちが、次々に叫びをあげる。
「ジュリア・ダルシアク」
「あ?」
「『鋼人戦隊』総隊長、“鋼花の”ジュリア。今からお前を細切れに解体する者の名です。憶えておきなさい」
 そう言って、ジュリアは背の巨大な両手斧を抜き放った。背にあったときは一枚の片刃斧だったそれは、抜き放たれると同時に機構が起動し、三枚の刃が渦を巻くように展開した。
「テオドール! 行きますよ!」
「はい!」
 応えたテオドールが構え直す。斧を持ったまま器用に、そして優雅に一礼すると、ジュリアはダヴィドと眷属たちへ告げた。
「お覚悟は、よろしくて?」
 それが開戦の合図だった。



「らぁッ!」
 レティシアの鋭い斬撃が袈裟懸けに奔る。それを紙一重で見切ったジュヌヴィエーヴが左手を振るう。
 ジュヌヴィエーヴの左手首から、奇妙なものが生えていた。竜の尻尾のような触手。それを彼女が鞭のように振るったのだ。高速で振られた鞭はレティシアの鎧を打ち据える。本来ならば、鞭は鋼の鎧には効果が薄いはずだ。
 だが、打たれたレティシアは呻いて下がる。鞭に打撃されると、まるで鎧などないかのようにレティシア本体に衝撃が走る。その身体には確実にダメージが与えられていた。
「……く!」
 歯を食いしばり、防御の技を展開しながらレティシアが剣を横に薙ぐ。
 それを舞うようにジュヌヴィエーヴが後方へ下がり躱す。同時に左手が振るわれ、またも触手の鞭がレティシアを打った。
「ぐ……!」
 強い。
 天上種の長、と自称するだけのことはある。
 完璧な見切り、続く回避を可能にする身のこなし。そして――
「らぁッ!」
 横薙ぎした剣を強引に戻しながら、踏み込んで突く。会心の出来と思った一撃は、ジュヌヴィエーヴの右手に掴まれていた。
 素手のはずだ。
 だが、ジュヌヴィエーヴの繊手は両手剣の切っ先を掴んだままで傷もつかず、掴まれた切っ先は引いても抜けない。見かけから想像もできない剛力にレティシアが驚いた隙に、不意にジュヌヴィエーヴが右手を放した。
 まずいと思ったときには、ジュヌヴィエーヴはレティシアの目の前へ達していた。
 右手が、レティシアの腹に当てられている。
「――」
 爆発したような衝撃が体内に発生した。
「あっ……があッ!!」
 視界が真っ赤に染まる。内臓から吹き出し、口外へ溢れた血が沸騰したように熱い。
 心の片隅で、棒立ちになっている今の状態が危険であると警告が発せられる。
 身体は動かない。
 ジュヌヴィエーヴの腕が見えぬほどに素早く、幾度も振られた。触手の鞭が都合六発、レティシアを打ち据えた。
「…………!」
 浸透し、体内で炸裂する恐るべき打撃の技。外傷が無いまま、レティシアは口から大量に吐血して倒れた。
「人そのものが穢れているのよ、レティシア。騎士や聖職者だけが悪なわけはないでしょう。人だからこそ、悪を成すのよ。おぞましく、狡猾な無毛の猿」
 倒れた妹を教え諭すように、静かに、そして嫌悪感を隠そうとせずにジュヌヴィエーヴが言った。
「竜は傲慢だわ。それゆえ、その奢り故に人の成長に気が付かない。足元を救われてもなお、敗因が何か気付けないでしょう。進化をやめた、愚鈍な遺物」
 ふふ、と笑みを漏らして続ける。
「どちらも醜くて、この星を任せるに値しない。――レティシア」
 地に伏した妹へ手を差し伸べて、ジュヌヴィエーヴが言う。
「貴方はそう感じたことはないの? 果たされぬ正義を成す――その過程で、唾棄すべき人の醜さを思い知っているのではないの?」
「……ぁ……」
 その手が動いた。地に伏した体がもがく。
 全身を責め苛む痛みの中で、レティシアはもう一度、それを思い描いた。
 
 雪の降る中、差し出された手。

「……あたしを」
 震える足を引き付ける。腕に力を入れる。
「あたしを生かしてくれたのは、師匠の手だ」
 上半身を起こす。
「傷だらけの、陰ながら人を救う無名の男の、優しい手だ」
 足に力を入れる。
「醜さなんて、いっぱい見たさ。旅をする中で、人の嫌な部分なんて腐るほど見た」
 ゆっくりと、立ち上がる。
「でも」
 体がふらつく。懸命に立て直す。
「でも――優しい人も、いっぱいいたんだ」
 倒れたときに地に刺さったままの両手剣を掴む。
「懸命に生きて、立派でも何でもなくても。あがいて、もがいて、それでも! ……それでも優しさを忘れない人が、いっぱい、いたんだ」
 息を深く吸う。長く吐く。
「あたしは、その人たちの牙だ」
 呼吸が、体に火を灯す。想いが、それを燃え上がらせる。
「戦う力を持たぬ人を、陰ながら護る、人の牙」
 体を炎が覆う。黒い炎。決意と覚悟と、希いをカタチにした、漆黒の炎だ。顔を上げ、真っ直ぐにジュヌヴィエーヴを見て、レティシアは叫んだ。
「それがあたしだ。それが、暗黒騎士だ!!」
 炎に包まれたまま、レティシアは剣を地より抜き、上段で振りかぶった。
「――そう」
 舌打ちして吐き捨てたジュヌヴィエーヴが、触手の鞭を振るう。顔を狙った一撃を防御の技――シャドウウォールで受ける。一瞬速度を減じた触手を、右手で掴み取った。
「逃がさねえ!」
 叫びと共に、暗黒の波動を放つ。黒い炎は触手を伝い、ジュヌヴィエーヴの体を包み込んだ。
「――!」
 炎に包まれたジュヌヴィエーヴが、触手を強引に引いた。右手は腰だめに構えられている。先の浸透攻撃の構えだ。だがその攻撃も、それからレティシアの剣を留めるほどの剛力も先刻承知だった。
 引かれるまま、逆らわずにレティシアは地を蹴った。触手を放し、勢いを利用して高く跳ねあがる。
 剣を掲げる。大上段に振りかぶった両手剣にすべての力を注ぎ込んだ。剣に収束した黒い炎が吹き上がる。
 それを、振り下ろした。
 ジュヌヴィエーヴの鞭が体を打ったが、それではもはやレティシアは止まらなかった。
 剣そのものと化した暗黒騎士は、雷光の速度で刃を振り抜く。ブラッドスピラー。
 黒い両手剣は、ジュヌヴィエーヴの体を縦に裂いた。
 地に降り立ち、振り抜かれた刃を引く。
 だが。
 両断されたジュヌヴィエーヴの左腕が振るわれ、レティシアは衝撃を受けて後退する。
「なっ……!」
 驚愕に目を見開いたレティシアの眼前で、黒衣の巫女はこちらを見ていた。
 その身体が、一つになる。両断されたことなど無かったかのように、ジュヌヴィエーヴは優雅に微笑んでみせた。
「その程度で死ぬのなら、天上種だなどと名乗らないわ」
 レティシアは息を呑む。両断されても生きている。そういえば、ジュヌヴィエーヴはオーギュストへもこう言っていた。貴方はわたしの首を落とした、と。
「……ほんとに……人じゃなくなったんだな」
 呻くレティシアを見て、ジュヌヴィエーヴは満足そうに笑った。
「ええ。でも、それは貴方もそうなのよ? レティシア。もう一人の『詩竜の巫女』」
「あたしが……!?」
「できればわたしが目覚めさせてあげたかったけど。貴方には別の方法がいいみたい」
 朗らかな口調でそう言うと、ジュヌヴィエーヴは歩き出す。
「別の方法……!? って、おい待て!」
 慌てて追おうとするレティシアへ牽制の鞭を放つ。飛び退くレティシアをほんの一瞬だけ目を細めて見つめると、ジュヌヴィエーヴは良く通る声で己の騎士を呼んだ。
「ダヴィド! 帰るわ!」



 巨体と化したダヴィドへ、咆哮を上げてジュリアが斧を振るう。
 戦斧の斬撃速度が暴風を伴い、凄まじい威力で異形の竜人を襲った。
「ガアアアッ!」
 ダヴィドが痛みに憎悪を滾らせて、巨大な鉤爪を横薙ぎにする。報復の一撃。しかしジュリアは怯まない。攻撃を受けながら、崩れることなく、さらに反撃を加えていく。
 さながら獣同士の殺し合いのように、ダヴィドとジュリアは互角に撃ち合う。
「……!」
 以前に見た時よりも更に強く激しくなっている姉の戦う姿に、テオドールは不覚にも呑まれた。
 テオドールとてただ見ていた訳ではない。鋼人戦隊の盾役たちと共に眷属たちを引き付け、それらを殲滅したところだ。そして姉の援護に回るところで、姉の激闘を目の当たりにしてしまったのだった。
 我に返ると、鋼人戦隊の者たちは次々にダヴィドへと攻撃を加えている。彼らにとっては当たり前の姿なのだろう。
 テオドールも駆け出し、その戦列に加わる。戦術の基礎が冒険者のそれを手本にしているため、テオドールもすんなりと仲間に加わることが出来た。
 竜騎士たちが空を裂き槍を突き立てる。格闘士が止まらぬ連続攻撃を叩き込む。吟遊詩人の戦歌が仲間を鼓舞し、幾条もの矢が軌跡を描いて突き刺さる。スカイスチール機工房発祥の機工士たちが、機工兵装と共に銃を撃ち放つ。そして、呪術士たちが一斉に火炎魔法を詠唱する。
「しゃらくせぇ!!」
 ダヴィドが咆哮し、強力な広範囲攻撃を放つ。吹き飛ばされ傷つく隊員たちを、幻術士たちが癒す。
 何度も攻め、様々な攻撃を凌いだ。だが、それでも――
「こんなもんか? ああ!? こんなもんかよヒトども!」
 ダヴィドは倒れない。数度目かの変異によって、もはや完全な竜と化したダヴィドが吠える。ジュリアへ単体攻撃を叩き込みながら、ほぼ同時に強烈な全体攻撃を放つ。しかも数度も。
 幾人もの戦隊員が戦闘不能に陥る。
「そろそろ仕舞いにするか」
 四枚の巨大な翼を羽搏かせ、ダヴィドが上昇する。その身が真っ赤な魔力に包まれる。明らかな、極大攻撃の前兆。
 鋼人戦隊は先の全体攻撃のダメージから、態勢を立て直し始めたばかりだ。余力が無い。
「……!」
 全員が焦燥した、そのとき。

「ダヴィド! 帰るわ!」

 魔法的な効果を込めているだろう。その声は戦場全体へはっきりと響いた。
「――ハッ」
 一声、嘲りの笑いを発し、ダヴィドが魔力を霧散させた。
「命拾いしたなあ、お前ら」
 テオドールたちが見上げる中、灰色の鱗を持つ竜は声の主のほうへ飛ぶ。ジュヌヴィエーヴを乗せると、再び上昇した。

「ジュヌヴィエーヴ……姉さま!」
 叫ぶレティシアへ、ジュヌヴィエーヴが告げる。
「あなたもじきに思い知るのよレティシア。あなたが人に寄り添っても、人はあなたに寄り添わない」
「……!」
「あなたはずっと孤独。その行いは自己満足にしかならない。差し伸べる手を斬りつけられて、それでも人を護ると言い続けられる? 暗黒騎士!」
 竜は遠ざかる。もはや返答も届かない。
 それをじっと見つめながら、レティシアは首を振った。
「……それでも、いいんだ。それでも……あたしは」
 視線を落とし、己の影を見つめる。
「人が寄り添わない、というのなら」
 視界にもう一つの影が現れる。顔を上げると、テオドールが微笑んでいた。
「寄り添う者がもうここにいるじゃないか」
 だから詩竜の巫女の言うことなど気にすることはない、とテオドールは続けた。
「……テオドール」
「想いは同じだよ、暗黒騎士レティシア。欲しいのは名誉じゃない。安堵した人々の笑顔、健やかな暮らし。そういうので、いいんだ。――だから、たとえ君が多くの人に疎まれることがあったとしても。私は君と肩を並べ戦うよ」
 テオドールが生き残った村人のほうへ視線を向ける。オデットがジュリアに抱きしめられている。崩壊した村を見て立ち尽くす者、失われた肉親や友のために泣く者。それから、安堵して空を見上げる者。
 彼らを見つめるテオドールの視線は暖かかった。きっと、すぐにでも彼らの手助けを始めるのだろう。
「……」
 寄り添うと言われたとき、レティシアは誤解した。それが自意識過剰だと分かって、急にレティシアは恥ずかしくなった。
「バーカ」
「え!?」
 突然罵声を浴びせられてテオドールが目を丸くする。
 このばか。
 やっぱりなんにもわかってない。
 テオドールの胸甲へ握った手を打ち付けて、レティシアは彼の横を通り過ぎる。
「君は、これからどうする」
 足を止め、空を見上げる。もう竜は見えない。
「追うさ。アイツらを放っておけない――お前は、これからどうするんだ」
「仲間の元に戻るよ。どうしても、助けたい人がいるんだ」
 そう言って、テオドールは己の手を見つめる。その手で掴めなかった人がいるのだと、レティシアは直感した。
「……そっか」
 それは、きっとテオドールにとって大事な人だ。
 だから。
「……こっちが片付いたら、あたしもそっちを手伝ってやるよ。だから、もしそっちが先に片付いたら」
「駆け付けるよ。必ず」
 握手のために差し出された手。
 一瞬だけ、その手が別の手と重なった。
 雪の日に差し出された、師の手と。
 ちょっと泣きそうになったレティシアは、誤魔化すためにその手に思い切り自分の手を叩きつけた。手甲同士が硬い音を立ててぶつかりとても痛かった。
 だから、この涙はそれだということにしておく。
 抗議するテオドールを置いて、レティシアは走り出す。
「――オーギュストのおっさんのとこだろ! 先行ってるぜ!」
 叫んだレティシアは、もう振り返らなかった。
 黒い鎧の少女は、蒼い空の下を駆け抜ける。
 
 もう、一人ではなかった。
 
(『黒と蒼』完 四章(二)『Light My Fire』へ続く)
Commentaires (1)

Kikik Iki

Alexander [Gaia]

執筆お疲れ様でした‼︎
読み直したりしてたら少し遅くなりましたが、感想等書いてみようと思います。


本編のモンエトの外伝の位置付けというのもあって読み易いボリュームだなと思います。
なのにとてもとても濃厚なストーリーで!
もうひとつの暗黒騎士クエストをプレイしているような気持ちで読んでいました‼︎

メインストーリーの時系列に絡めた展開は、
蒼天をプレイしていた自分を振り返りながら、
あの頃別の場所でこんな戦いがあったのかもしれないと、
今でも何処かで戦ってるのかもしれないと思わせてくれる、
14創作ならではでワクワクしました!

実際のスキルを使ったバトルシーンやスキル効果を超えた展開は、
胸熱過ぎて高まりまくりでした‼‼w
特に覚醒回はどんな物語でも良いものだ…w

しかもしっかり続きがあるような終わり方で!
これで続き書いてくれなかったら生殺しもいいとこでしょ……。
またシリーズがひとつ増えてしまうかもですが、
とてもとてもとても期待していつまでも待ってるので!

どうぞひとつ何卒宜しくお願いします!!!!!!!!!!
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