スターダイバー→星→月の連想ゲームで生まれた妄想です。まぁ、竜騎士まだレベル低いんですけどね。
ヌーメノン大書院からバルデシオン分館への帰り道。日はすっかり落ち、満月が漆黒の夜空に浮かんでいる。
「なんでも、ひんがしの国やドマには『月には兎がいる』って言い伝えが残ってるらしい」
夜空を見上げてグ・ラハ・ティアがそう口にした。
「……実際いたな。なんとも憎めない可愛らしいのがたくさん」
ヴィエラの特徴である兎耳をぴょこぴょこ揺らしながら、光の戦士は月での冒険に思いを馳せた。
最近ではここ、オールド・シャーレアンでも月の船員を目にすることは少なくない。光の戦士はプディングウェイがいつも佇んでいる木陰に視線を向けた。
「もしかしたらアラグの記録が伝わって、伝承として残ったのかもな」
アラグの知識に精通するラハは興味深そうに呟いた。そしてふと、光の戦士の頭の上……立派な兎の耳を見つめた。
少し何かを考えた後、屈託の無い笑みを浮かべるラハ。
「……ハハ、似たような耳を持っててもあんたとレポリットじゃ大違いだ」
「ム。悪かったな、可愛げが無くて」
少し不貞腐れた様子で光の戦士も返す。
「そんなつもりじゃなくてだな。オレが言いたかったのは……」
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そんな一幕からしばらく経った後。暗闇の中、何者かの襲撃を受け地面に倒れ込むグ・ラハ・ティアの姿があった。
「かの英雄の取り巻きと聞いていたから多少期待をしていたが……この程度か。こんなのを傍に置く英雄の高も知れる」
「グッ……!」
目障りと言わんばかりにラハを蹴り飛ばす襲撃者。ロクに防御も出来ないままラハは地面を転がった。
仰向けになったラハの視界に映ったのは一面に広がる美しい星空。奇しくも、満月の夜であった。
直後。何かに気づいたラハは不敵な笑みを浮かべ、こう言い放った。
「知ってるか?月には兎がいるんだ」
「……?貴様、何を?」
ラハの脈略の無い呟きを聞き、怪訝そうにする襲撃者。
ラハは不敵は笑みを崩すことなくこう続ける。
「ほら、月から兎が降ってくるぞ」
「なっ!?」
勢いよく空を見上げる襲撃者。視認したのは天高くの満月と重なった人影。長槍を構えた姿が紅蓮に輝いて見えるのは、幾重もの死線をくぐり抜けてきた竜騎士のオーラであろうか。
襲撃者は一目でそれが件の英雄だと理解した……否、せざるを得なかった。
襲撃者の足元に展開される魔法陣。天空の兎から魔法陣に向けて空中に三つのリングが現れる。
流星の如く空から落下する光の戦士。
瞬き一つよりもなお、短い時間……正に“刹那”と形容するに相応しい時間の後、ドン!と激震が地面を走った。英雄の必殺の一撃が放たれた証であった。
尚も続く英雄の鋭い槍撃に襲撃者は手も足も出ない。ドサリと音を立てて倒れ込む襲撃者。
流石は終末を退けた英雄か。あっという間に戦闘を完遂してしまった。
「大丈夫か、ラハ」
月光を背に、ラハに手を差し伸べる光の戦士。
「ああ、大した怪我はしてない」
ラハはその手を取って立ち上がった。その時ラハの脳裏に浮かんだのは、しばし前の満月の夜のこと。
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「ーーーオレが言いたかったのは……あんたの耳は誰かが助けを求める声を決して聞き逃さないよなってことさ」
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スタスタと先を歩いていく英雄の背中を惚けながら眺めるラハ。
「ほんと、かっけー」
そんな呟きが、ラハの口をついて出た。
「なんか言ったか?」
兎耳をピョコッと揺らし、振り返る光の戦士。
これは聞こえてないのかよ、と内心で苦笑いしつつミコッテの青年は小走りで英雄の背を追うのであった。