【登場キャラ紹介】
ユフィア……この物語の主人公であるポンコツ冒険者。今回は召喚士でなければできない依頼なのだと珍しく張り切っているが、真相はいかに? まぁ、しょーもないことであるのは大体想像がつく。
ジェム……ユフィアが召喚する関西弁のカーバンクル。今回は他の召喚獣に出番を持っていかれると思いきや。この日記を書いているユフィアの『事実歪曲魔法』(自己解釈、ご都合設定とも言う)が発動したため、「……カーバンクルやエギって存在は別物? でもカーバンクルがいないと召喚できないし、召喚獣ってもしかしてカーバンクルが変質しているのか? ——事実はどうであれ、面白い方に一票で!」と言うノリで、同一存在に。
さらに「どうせなら変質の影響をジェムくんが受けて言葉遣いや性格が変化するのもアリだな!」などとオモチャにされる始末。果たして、ジェムくんの運命(扱い)やいかに⁉︎
3日目「召喚士のお仕事来る!」
召喚士——それは太古の昔、喚び降ろされた「蛮神」の力を奪い、使い魔として使役する魔道士の呼称である。「異形の獣を召喚する者」として、その名には尊敬と畏怖が込められているという。
ユ「コンディションはバッチリ。エーテルも申し分なし。——ジェムくん、準備は良い?」
ジ「いつでもいけるで、ご主人」
ゴブレットビュート*の中心地、ブリミングハート広場に1人と1匹の姿はあった。
※ウルダハ近郊にある冒険者居住区。ユフィアの別荘(アパルトメント)があり、ブリミングハート広場でまったり過ごすのはユフィアの密かな楽しみにもなっている。金持ちな気分を味わえるってイイよね!
余談であるが、別荘のハウジングに100万ギルほど使ったことはジェムくんに内緒である。
纏う空気は凛然であり、その横顔はまさに歴戦の勇士そのものであった。
漲るエーテルは彼女のコートをはためかせ、手にした魔導書からは眩い光が放たれている。
「——光の戦士だ」
そうこぼし、息を呑んだのは果たして誰だったのか?
ユフィアたちの周りには冒険者やウルダハの群衆が取り囲むように出来上がっていた。
羨望や期待の視線を一身に受け、されどその瞳に宿る煌めきは揺るがない。
ユ「溢れる願望の器、星の命を啜り、罪を抱えて正義を成さん」
呼応するかのように、ジェムは宙へと跳び上がり、その姿を光とともに消失させる。
ユ「我が呼びかけに応え、顕現せよ!」
直後、大気が震え、ジェムが消えた空間から見上げるほどの巨人が出現し、地響きを立てて着地する。
コボルト族が岩神、タイタンである。
ユ「さあ、いくよ。みんな準備して!」
ユフィアの掛け声に、今度は周囲の人々が反応する。
各がいそいそと衣服を脱ぎ、予め着ていたであろう水着姿となったのだ。
それを確認したユフィアはニヤリと笑い、
ユ「ジェムくん、【グラナイト・ジェイル】を手筈通りにね」
タイタンと化したジェムに指示を出した。
ジ「承知した。手加減すればええんやろ?」
タイタンとなっても声は変わらず可愛いまま。そして若干タイタンの喋り方に影響を受けているという違和感全開のジェムは、ともあれ手を叩く。
グラナイト・ジェイル。本来であれば蛮神タイタンが扱う技の一つであり、それは冒険者を岩で拘束し、そのまま圧殺するという恐ろしいものである。
——が、手加減されたそれは、水着姿になった人々の首から下を包み込むように、それこそ抱擁を思わせる絶妙な力で、拘束したのだ。
ユ「続けていくよ」
ユフィアの掛け声でタイタンは虚空に消え、入れ替わるように焔神イフリートが姿を表す。ウルダハの住民にとってその姿は畏怖の対象だが、この日この時に限っては悲鳴ではなく歓声が上がった。
ユ「ジェムくん!」
ジ「以心伝心。トロ火やろ?」
イフリートと化したジェムは頷き、灼熱の咆哮(トロ火)をグラナイト・ジェイル一つ一つに迅速かつ丁寧に浴びせていった。
最初こそは短い悲鳴や驚嘆の声があったものの、数分後には……
「き、気持ちいいいいいいっ!」
「ああああああ、溶ける、コリが溶けるうううう!」
「おほおおおっ⁉︎ しゅ、しゅごいいいいいい」
等々、それぞれから歓喜(?)の叫びが上がっていた。
ユ「そろそろ頃合いだね。ジェムくん仕上げだよ」
ジ「ええ、わたくしの風でク●虫たちにトドメを刺したるわ」
ユ「ジェムくんっ! 言葉遣い抑えて抑えて」
慌てるユフィアにたしなめられつつも、ガルーダになったジェムは広場中央にてエリアルブラスト(微風)を発動する。
春一番にも似た風が巻き起こり、それによって人々にかかったグラナイト・ジェイルがガラガラと崩れて消失する。
「ふああああああああ〜」
「はああああああああ〜」
グラナイト・ジェイルの支えを失った者たちの、うち数名はその場に膝をつくor倒れ込んだ。
恍惚な表情を浮かべ、「ご、極楽ぅ」と呟きながら。
いわゆる、「ととのう」といった状態である。
その後自力で動けう者はふらふらと千鳥足で、動けない者は待機していた不滅隊の隊員が介助して移動し、順番を待っていた次陣が嬉々として服を脱ぎ始める。
「順調みたいね」
一巡目を無事に終え、一息ついているユフィアとジェムに話しかけるミコッテ女性がいた。
ユ「おおっ、ミトラさんだ。やっほー」
そこにいたのはヤ・ミトラ・ルル*。ユフィアが召喚士になるきっかけと成長をともに歩んでくれた盟友である。
※暁の血盟の一員、ヤ・シュトラ・ルルの妹さん。妹なのにヤ・シュトラさんより年上なのだという。命が惜しければ深く詮索してはいけない。
「召喚士の普及活動って聞いて招かれたんんだけど、まさかパフォーマンスとして岩盤浴をするとは思わなかったわ」
ユ「私もびっくりですよ〜。今回の話をダンシング・ウルフ大闘士*さんから持ってこられた時は耳を疑いましたもん」
※ミトラさんと同じく、召喚士修行時代にお世話になったルガディン族の男性。名前が面白いと思うのは私だけだろうか?
「意外ね。彼って真面目でお堅そうなのに」
ユ「実際は召喚士部隊のメンバーから提案があったみたいですよ? ほら、今ウルダハの富裕層で空前の健康ブームが到来しているって話じゃないですか。エギたちの力を上手く使えば岩盤浴ができるんじゃないかって。これ、結構緻密なエーテル操作を要求されるんで、訓練にもなるんですよ」
「なるほどね。納得がいったわ。さすがはウルダハの不滅隊。訓練ひとつとっても利益を追求できるところは流石だわ」
苦笑しつつ、ヤ・ミトラはやれやれと肩をすくめた。
「それにしても、だったらなんでユフィアを呼んだわけ? 人手不足?」
ユ「そうそう。試験的にやるつもりで、口コミだけの軽い告知をしたそうなんですけど、思った以上に話が広がっちゃったみたいで。本来の目的である訓練も大事だけど、集まっちゃったお客さんの中には有力者もいるわけで。下手はできない、と」
ユフィアが指差した先では、召喚士部隊の隊員たちが数人のお客を相手に岩盤浴が思うようにいかず四苦八苦していて、少し離れた位置に立つダンシング・ウルフ大闘士は頭を抱えていた。
「……クレームはおろか、怪我でもさせたら大問題。今後の活動も難しくなるでしょうしね。その点、冒険者である貴女なら万が一の事態に陥っても責任は不滅隊には及ばない。——随分都合のいい依頼ね?」
ユ「まぁまぁ、その分報酬は弾んでもらってるから私は気にしてないよ?」
「はぁ、相変わらずのお人好しね。ユフィアがいいなら私が口出しすることじゃないわ」
ため息うを吐くヤ・ミトラの横で、ユフィアは思い立ったように手を叩く。
ユ「そうだミトラさん、この後時間空いてたりする?」
「? 特に予定はないけど」
ユ「じゃあじゃあ、一緒に飲まない? 今回の依頼の特別報酬で、ワインポート産の新作が貰えるんですよ。まだ市場に出回ってないレア物で、生産者曰くかなりの自信作なんだって」
「へぇ、それはとても興味を惹かれるお誘いね。——ちなみに、そのワインってブドウジュースのお風呂に顔を突っ込んだレベルの芳醇な香りが特徴だったりしない?」
ユ「そうそう、今まさに漂ってきてるこんな感じ……の?」
ミトラに続き、ユフィアも異変に気が付いた。
どこからともなく流れてきた香りは濃厚ともいえるブドウの甘酸っぱい香り。
匂いの元を辿ると、そこは関係者用の天幕があり、もっと言うと報酬のワインが置いてある場所であり、そこには何故か全く関係者とは思えない十数名の冒険者たちの姿があった。
「兄貴、この酒最高に美味いっすね」
「おうよ、なんだってこんなところに上等な酒が置いてあるかわからねぇが、これはきっと商神ナル・ザル様の思し召しに違いねぇ」
「だるいと思ってた岩盤風呂の待ち時間も、これなら苦にならないっすね! ウッヒョッヒョッ」
すっかり出来上がった様子の冒険者集団。モヒカンやスキンヘッド、トゲ付き肩パッドに筋骨隆々な風体はお世辞にも柄が良いとはいえない面々である。
ユ「————…………あ”?」
ユフィアの口から、おおよそ女性がこぼしてはいけない声が漏れていた。
ジ「ご主人〜、そろそろ次のお客さんやで、ってうおっ!? なんやこの殺気は? 敵か? 敵襲なんか?」
ユ「……ジェムくん」
ジ「お、おう」
ユ「死なない程度に抑えてくれる?」
静かに、されど滲み出る怒気を隠すことなく告げるユフィアに対し「程々にな?」とだけジェムは返した。
一方、自らの身に危機が迫ってることを知らない世紀末風冒険者たちは、上機嫌のままに最後の一本を開封すべく手を伸ばそうとしていた。
ユ「グラナイト・ジェイル」
が、その手がボトルに届くことはない。
瞬く間に発生した岩石の拘束が、動くということを許しはしなかったのだ。
「なんだこりゃ?」
「動けねぇ」
「ぐ、ぐるじいいぃぃぃ」
いくら力自慢の冒険者といえど、逃れることは叶わない。唯一露出した顔は、自由を奪った張本人であるユフィアへ向けられる。
「テメェ、急になんのつもりだ? こんなことしてタダで済むと思うのか?」
兄貴と呼ばれていた頭目と思しき男がユフィアにくってかかる。しかしユフィアは涼しい顔のまま、
ユ「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ、『お客様』」
合図を出して焔神と化したジェムが灼熱の咆哮を浴びせる。命を奪わない程度に抑えているとはいえ、この段階ですでに何人かは気を失っていた。
「ま、待て。俺たちは客だぞ? それに俺は砂蠍衆にも顔が効くんだ。この意味がわかるよな?」
ユ「ええ、ですから『特別』な接待をさせてもらいます。ただの岩盤浴ではご満足いただけないと思いましたので」
ユフィアは貼り付けたような営業スマイルを浮かべ、指で空をさす。
ユ「快適な空の旅をお楽しみください」
「やめ——」
制止を求める声は暴風に掻き消され、巨漢たちは宙を舞う。
この時点で意識を保っていたのは頭目の男のみ。地上に立つユフィアを睨みつけ、次に会ったときの報復を宣言すべく口を開こうとした。
「嘘だろ、おい」
が、実際に出てきたのは絶望のそれであり、男の顔からは血の気がみるみると引いていく。
視線の先、ユフィアの傍に姿を現したのは最強の蛮神。第七霊災の悪夢と謳われる「バハムート」だったのだ。
ユ「デスフレア」
容赦なきトドメの一撃は、世紀末風冒険者集団を空の彼方へと漏れなく招待し、キラリと光る星にしたのだとかなんとか。
その後、騒ぎを聞きつけたダンシング・ウルフ大闘士が慌てて駆けつけ、事態は大きくなることなく収束。片付けを済ませたのちに岩盤浴は再開され、滞ることなく終わりを告げた。
そしてその夜、ゴブレットビュートのアパルトメント一室にて、ヤ・ミトラとテーブルを挟んだユフィアは上機嫌な面持ちで赤ワインを煽っていた。
ユ「ん〜〜、美味しい! このまろやかな舌触りとほのかな辛味。何よりも口いっぱいに広がるブドウの香りが最高」
「よかったわね。お客さんの中に、あのワインを売り出そうとしていた商人さんがいて、後日いくつか譲ってもらえることになったんでしょう?」
ユ「渡りに船とはこのことだよね。幸い、この一本は残っていたし、遠慮なく飲めるよ」
ジ「ご主人、残りが少なくなるとケチケチ飲むもんな」
ユ「ジェムくん?」
ジ「おっと、失言失言。なんでもないでー」
「ふふふ。あとで聞いた話だけど、ユフィアがぶっ飛ばしたあの冒険者集団、どうもあまりいい噂がなかったみたいよ。今回の件で、関わっていた砂蠍衆の汚職も芋ずる式で露呈したみたい。お手柄だったじゃない」
ユ「あ、だから本来の報酬より金額が多かったのか。ダンシング・ウルフさんが『少なくてすまないが』って言ってたことの意味がわからなかったよ」
「貴女、そういうところは本当にいい加減よね。大丈夫?」
ユ「大丈夫。そういうところは、ジェムくんがしっかりしてくれてるから」
ジ「いや、そこは自分でしっかりしぃや、って何度も言うこっちの身にもなってほしいんやけど?」
ユ「もう、細かいことは気にしないの〜。今はお財布も胃袋も満たされてハッピーなんだから、ね? 思いっきり楽しもー!」
ワイン片手に無邪気な笑顔を振りまくユフィア。
その光景を前にジェムとヤ・ミトラは顔を見合わせ「仕方ないな」と呟きつつ、満更でもない笑みを浮かべるのだった。
***
あとがき
大変お久しぶりです。
もはや最後の更新日を確認する勇気がございません。
言い訳をすると、色々ですが、「引越し」「転職」「アプデ」ですね。
あとは意志の弱さというか、ゲームの電源入れちゃうともうダメです\(´ε` ;\)
次回予告しちゃうと他のアイディアあっても書けなくなるというのが判明したので、今回からは次回予告なしで行こうと思います。
今回地味に長かった。
もっと気軽に書けて、気軽に読んでもらえるように努力していきたいです。
頑張ります(`・ω・´)