悲鳴。叫び。怒号。
燃え盛る大地にそれらは響く。
曖昧になった意識で、わたしはそれを聞いていた。
「どうか忘れないで」
声が聞こえる。
悲しいみを孕んだ声。
まって。いかないで。
手を伸す。
しかし、私の指先は虚空を撫でるだけだった。
曖昧な意識が、沈み消える。
あぁ、私は……
「先生?」
ハッとして、目を覚ます。
どうやら朝が来たらしい。
「…………おはよう。メリエッダ」
「はい。おはようございます」
久しぶりに柔らかいベッドで寝たせいか、眠りが深かったみたいだ。
上体を起こし、ベッドの縁に座る。
汗で寝巻きがべったりと肌にまとわりつく。
少し不快だ。
「シャワー浴びてくるね」
「はい。私、先に茶屋にいってますね」
「うん。わかった」
ぱたぱたと足音を立ててメリエッダが宿泊している部屋を出ていく。
ダルマスカにはない風景に心が踊ってるのだろう。
服を脱ぎ捨て湯を浴びる。
不快な汗を流しながら、さっきの夢を思い出す。
燃える大地と悲鳴と怒号。
思い出すことがめっきり減っていたカルテノーでの記憶。
ダルマスカを出たあの日から、毎日夢に見るようになった。
今日で10日連続。
さすがに違和感を感じる。
何かの暗示?それとも偶然?うーん……わからない。
浴室を出て体を拭い、買ったばかりの服を着る。
長いかみを束ねて縛り、宿を出る。
ひんがしの国唯一の貿易都市クガネ。
二年前に来たときよりも、活気が増した気がする。
寄り道せずにまっすぐ茶屋に向かう。
店につくと、テーブル席に座る2人が見える。
「よう。遅かったな」
「うん。お待たせ。彼は?」
「まだ来てないですよ」
メリエッダの隣に座って店員に団子を頼む。
キリシロがへらへらと笑いながら、勝負を仕掛けてきた。
「団子が先か、あいつが先か。賭けるか?」
不適に笑い即答する。
「ははっ、団子」
「俺はあいつだ」
「私は、大穴狙いの同時で!」
「攻めるねぇ、ル・メリエッダ」
わいわいと談笑しながら、彼を待つ。
十分もしない時間の後、先に来たのは和装の店員であった。
「お待たせしました」
「私の勝ちね」
自信ありげに、キリシロをみる。
オーバーリアクションで悔しがっている。愉快な男だ。
キリシロの反応を楽しんでいると、メリエッダが、潮風亭を指差した。
「いいえ先生、私の勝ちです」
仕事を終えた待ち人が、こちらに来るのが見える。
「ははっ、こりゃ完敗だ」
「お待たせしました皆さん。なにやら楽しそうですね」
にっこりと微笑むその顔は、二年前と全く変わらないものだった。
「こんにちは、ニールさん。ちょっとした勝負をしてたんです!そして、私が勝ちました!」
「おー!すごいね。ル・メリエッダちゃん」
ニール・モンブラン。
二年前。エオルゼアを離れクガネに航るための船を出してくれた商人。
ダルマスカを出て数日クガネに到着した私たちは、彼と奇跡の再開を果たした。
たった数日間の出会い。
そんなちっぽけなことを覚えていた彼は、キリシロの姿をみた瞬間に私たちに声をかけてくれたのだ。
ヴィエラになった私を疑いもせず、受け入れてくれもした。
ほんと、優しい人だ。
「団子を食べたら、僕の船にいきましょう。そっちのほうが落ちついて話せますし」
「懐かしいな、ニールさんの船」
「あぁ以前の船は、引き払っちゃったんですよね。今の船はあっちにあります」
ニールさん空を指差す。
「空?………まさか、飛空挺!?」
にかっと彼が無邪気に笑った。
二年という月日の経過をひしひしと感じた瞬間だった。